研究実績の概要 |
アミド化合物は、天然物や医薬品などに見られる重要な化学種である。近年、窒素上を官能基化したアミド化合物を用いることで、対応する窒素中心ラジカルの発生、続く1,5-水素原子移動(HAT)に基づいた遠隔位官能基化反応が報告されている。これらの手法は、ケミカルスペース拡大の観点から、種々の構造を有するアミド化合物を構築可能とする優れた手法であるものの、事前に官能基化されたアミド化合物を調製する必要がある。一方で、光駆動型プロトン共役電子移動(PCET)は温和な条件下、単純なアミド化合物から窒素中心ラジカルにアクセスできることから、直截的かつ官能基許容性に優れた手法である。しかし、用いる塩基や基質の結合解離エネルギー、触媒の酸化還元電位などのさまざまな要因に支配されていることから、反応制御が困難である。たとえば、PCETと続く1,5-HATにより生じた炭素中心ラジカルを続く結合形成に適用するのは、単純なラジカル補足反応に制限されている。 このような背景のもと、研究者は、当該年度、光駆動型PCETに基づくN-ヘテロ環状カルベン(NHC)触媒系を用いた、アミド化合物の遠隔位アシル化反応の開発に着手した。可視光照射下、光酸化還元触媒と温和な塩基を用いることで、アミド化合物の窒素中心にラジカルが発生する(酸化的PCET過程)。生じた窒素ラジカルは速やかに1,5-HATが進行し、炭素中心ラジカルを与える。一方で、カルボン酸から容易に調整できるアシルイミダゾールとNHC触媒から生じるアシルアゾリウム中間体に対する一電子還元によりケチルラジカルが生じる。これら各々の触媒サイクルから生じた2種類のラジカル(炭素中心ラジカルとケチルラジカル)が選択的に反応することで、δ-C-Hアシル化体を与える。
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