研究実績の概要 |
近年、ヘリセンの動的構造とキラル特性に注目が集まっており、キラル特性を向上させる戦略としてらせん径の伸長やヘテロ元素の導入が研究されている。一方で、特に三層以上の構造を有する長尺のヘリセンは中心層に対する上下の層からのひずみや安定性の問題から合成は困難であり、カルボヘリセンにおいてのみ達成されている。従って、ヘリセンにおいて複数層構造にまたがるらせん長依存性の系統的な研究はほとんど行われていない。本研究において、申請者は異なるらせん長を有するアザ[n]ヘリセン(n = 9, 11, 13, 15, 17, 19)を系統的に合成した。合成した全てのアザヘリセンについてX線結晶構造解析を行い、特に[17]ヘリセンと[19]ヘリセンは三層構造のヘリセンであることが判明した。いずれのアザヘリセンもピロール部位における溶媒分子との水素結合によりTHFやアセトンに対して高い溶解性を示し、吸収・蛍光スペクトルにおいてはらせん長の伸長に応じて赤色シフトが観測された。アザヘリセンの系統的合成を通してヘリセン長に依存する構造物性相関およびキラル光学特性を明らかにした。また、酸化的縮環を用いたアザヘリセンの合成を応用することで、分子内にアザ[9]ヘリセン骨格を二か所有するダブルヘリセンの合成も行い、求核置換反応を用いることで八か所のピロール窒素上にアルキル基を導入し溶解性の向上も検討した。合成したダブルヘリセンには二種類のコンフォメーションが考えられたがX線結晶構造解析より、二か所のアザ[9]ヘリセン骨格が同じキラリティーとなるコンフォメーションを選択的に取ることが確認された。また理論計算から二種類のコンフォマーのエネルギー差を算出し、同時に遷移状態の計算も行いヘリセンの反転挙動に関する考察も行った。
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