光強度の急増に対する個葉光合成の応答(光合成誘導反応)は、圃場環境下における作物の生産性および環境ストレス耐性に関わる。本研究では、温帯ジャポニカ、熱帯ジャポニカ、インディカ間の光合成誘導反応の差異を調査し、その生理生態的要因と遺伝的要因の解明を目指した。 日本在来イネコアコレクション(JRC)について、弱光から強光の変化に対する光合成速度の応答を観察し、光合成誘導反応の多様性およびイネ亜種間での差異を評価した。結果として、JRCの光合成誘導反応には大きな遺伝的多様性が確認された。強光照射後10分間の積算光合成量は、最大光合成速度と有意な相関がなく、強光照射直前の光合成速度と密接な相関を示した。これは先行研究と同様の結果であり、光合成誘導反応と最大光合成速度は独立した要因によって制御されること、弱光下での光合成活性がその後の光合成誘導反応に重要であることが示された。世界のイネコアコレクション(WRC)の結果も含め、イネ亜種間で比較した結果、最大光合成速度については差異が確認されなかった一方で、光合成誘導反応については温帯ジャポニカが、熱帯ジャポニカおよびインディカよりも緩慢であった。温帯ジャポニカは、誘導反応中の炭素獲得量が少ないものの積算蒸散量も少なく、変動光下において水の損失を抑える水利用戦略をとっている可能性がある。 次に、JRCの誘導反応中における光合成速度の時系列データに対しゲノムワイド関連解析を実施したところ、染色体第7番と第9番にピークが検出された。また、迅速な光合成誘導反応を有するインディカ品種ARC 11094と温帯ジャポニカ品種コシヒカリに由来する戻し交雑集団を用いた解析では、染色体第7番と第12番にピークが検出された。これら4つのピークはそれぞれ異なる染色体領域に位置していたことから、光合成誘導反応の多様性には様々な遺伝的要因が関与していると考えられる。
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