研究実績の概要 |
薄膜合成に特有の人工超格子は、物質を自在に設計できるため、材料開発において重要なテーマのひとつである。本課題では、[111]方向に超格子を作成することに着目し、特に、バンド構造が二次元梯子格子や二次元ダイヤモンド格子と類似する点を物質開発と理論計算の両輪で明らかにすることを目指して研究に取り組んだ。本研究では以下に示す成果を得た。まず、(1)計算から、[LaCrO3]3/[LaAlO3]3, [LaNiO3]3/[LaAlO3]3, [LaCuO3]3/[LaAlO3]3, [LaMoO3]3/[LaAlO3]3のように111方向に3層毎に周期積層させたペロブスカイトの超格子は、軌道の重なりによって二次元ダイヤモンド格子構造と同じ電子状態となることを明らかにした。このような超格子は、Bサイトの積層パターンがABCABC積層し、三回回転対称軸上にt2g軌道がある。よって、波数空間ではダイヤモンドや閃亜鉛鉱構造のようなtetragonalな結晶構造に対応する。このことが二次元ダイヤモンド構造のバンド分散をもつエッセンスになることを浮き彫りにした。次に、(2)実験面では薄膜合成をパルスレーザー堆積(PLD)法や分子線エピタキシー(MBE)法で取り組んだ。PLD法ではターゲットとなる化合物の合成はできなかったが、MBE法ではいくつか進展があり、例えば、SrCrO3の合成では111方向のSrTiO3基板(引張応力)とLSAT基板(圧縮応力)の実験から、SrTiO3基板上では不純物相ができる一方、LSAT基板上ではSrCrO2.8ができることが分かった。SrCrO2.8は酸素欠損面方向が秩序化した化合物であり、基板応力を加えることで酸素欠損面制御につなげられる可能性がある。薄膜人工格子作成は今後吟味が必要であるが、酸素欠損面方向制御や薄膜成長の観点から興味深い結果を得ることに成功した。
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