研究課題
特別研究員奨励費
乳がんの予後因子としては、腋窩リンパ節転移の有無が重要である。リンパ節はそもそも免疫監視機構の中核を担う場であるにもかかわらず、なぜリンパ節にがん細胞の転移が成立しうるのか、という疑問を抱いた。転移リンパ節において、免疫系が抑制されていることがわかっているが、転移リンパ節という局所において、リンパ球がどのような因子・メカニズムによってどのように抑制されているのか、という問いに正確に答えることは依然として難しい。本研究では、がん細胞と免疫細胞の相互作用を理解するため、リンパ節におけるがん細胞と免疫細胞の位置関係を病理学的に捉た上で、転移リンパ節の免疫抑制因子の解明にせまる。
乳がんにおいて最初に転移が成立するのは腋窩リンパ節である。リンパ節には免疫細胞が多数存在するにもかかわらず、がん細胞が排除されずに転移が成立するのはなぜなのだろうかー、この疑問に答えるべく、乳がん患者の腋窩リンパ節を用いて、マルチオミクス解析を行った。6名の乳がん患者において、同一患者間で転移リンパ節と非転移リンパ節の遺伝子発現を比較したところ、マクロファージに関連する遺伝子の発現が低下していることがわかった。その中でも、CD169マクロファージという、主に二次リンパ節に存在し、腫瘍免疫に関して特殊な働きをもつマクロファージが転移リンパ節で減少していることに着目した。この特殊なマクロファージは、がん細胞を貪食しキラーT細胞に抗原提示を行う働きを持っている。CD169マクロファージの減少により、免疫の初動の機能が働かなくなることでがん細胞がリンパ節で排除されずに生存できるのではないかと考えた。空間トランスクリプトーム解析およびイメージングマスサイトメトリーにおいても、転移リンパ節において、マクロファージ、特にCD169マクロファージが最も減少している免疫細胞であることが分かった。474のリンパ節を用いて転移リンパ節と非転移リンパにおけるCD169マクロファージの個数を、免疫染色を用いて比較したところ、乳がんのすべてのサブタイプにおいて、CD169マクロファージが減少していることがわかった。以上より、リンパ節に転移したがん細胞がCD169マクロファージを選択的に排除し、免疫反応の初動体制を抑制していることが示唆された。転移した乳がん細胞がどのようにしてCD169マクロファージを排除しているのかというメカニズムに関しては分かっておらず、今後の課題としている。
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bioRxib
巻: -
10.1101/2023.08.02.551659