研究課題
特別研究員奨励費
太陽大気では磁力線の繋ぎかえ(磁気リコネクション)による磁気エネルギーの熱・運動エネルギーへの変換により、様々な規模の爆発現象(フレア)が起きている。小規模なフレアは太陽大気最下層の光球でも起きると考えられているが、その空間スケールの小ささから従来の太陽望遠鏡では詳細な観測が難しかった。本研究では新しく稼働した世界最大の太陽望遠鏡DKISTを用いて光球での磁気リコネクションの観測を実施し、その統計的な性質を世界で初めて提供することを目指す。また、彩層との同時観測を実施することで、光球での磁気リコネクションが彩層の加熱やダイナミクスにどのような影響を与えるかについても調査する。
主鏡4mの太陽望遠鏡DKISTによる光球・彩層の同時撮像観測を予定していたが、DKISTの観測計画がCovid-19によるパンデミックの影響を受けて2年間遅延してしまった。そのため、観測自体は実施されたが、科学的な解析が行えるように処理されたデータを採用期限内に入手することができなかった。そこで、代わりに京都大学SMART/SDDIとSDO/AIAを用いて太陽静穏コロナで起きる小規模なフレアとそれに伴う質量噴出現象について、彩層のスペクトル情報を合わせた統計解析を実施した。これらの現象は本来DKISTで計画していた観測対象よりも10倍程度空間スケールが大きいが、コロナで起きるフレア現象の中では最も小さい。静穏コロナでの小規模フレアは、太陽コロナを100万度に加熱するための加熱源になり得るため重要であるが、その物理機構の詳細については十分に調べられていなかった。そこで、本研究では、特に大規模な太陽フレアとの比較を通して、静穏コロナでの小規模フレアの物理機構の解明を目指した。統計解析の結果、噴出物の物理量(質量・速度・運動エネルギー)とフレアのエネルギーの間には、より大きなフレアでの関係も合わせて考慮すると、10桁以上のフレアのエネルギーに渡って正の相関が確認された。これは、非常に広大なエネルギーに渡って、フレア現象は共通の物理機構で起きていることを支持する。また、太陽静穏コロナで起きる小規模なフレアでも、コロナからのエネルギー注入に対する彩層の応答は典型的な太陽フレアの場合と同じであることを示す観測的な証拠を複数発見することができた。この結果は、小規模フレアによる具体的なエネルギーの解放・輸送機構を示唆するものであり、将来のSolar-C/EUVSTによる詳細な分光解析、さらにはコロナ加熱問題解明に向けて足掛かりになる成果である。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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Astrophysical Journal
巻: 943 号: 2 ページ: 143-143
10.3847/1538-4357/acac76