研究課題/領域番号 |
22KJ1879
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補助金の研究課題番号 |
22J15083 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
牧野 寛 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
2023年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2022年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | ホウ素 / 高分子触媒 / ルイス酸性 / 側鎖間協働 / 高分子分解 |
研究開始時の研究の概要 |
これまでに見出していたアルケニルボロン酸エステルと無水マレイン酸ユニットの側鎖間協働に基づいた直接エステル化高分子触媒の構造をチューニングすることで、収率ならびにリサイクル性を向上させた新規合成高分子触媒の開発を試みる。さらに、ホウ素と相互作用させる元素を酸素から拡張することで新規触媒機能の発現を目指し、合成高分子の側鎖間協働を基軸とした触媒設計概念を確立する。また本研究の過程で偶然発見したアルケニルボロン酸エステルをトリガーとするビニルポリマーの分解反応について、より温和な条件で分解可能な反応系を新しく構築する。
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研究実績の概要 |
当特別研究員はこれまでに、アルケニルボロン酸エステルのラジカル重合によってホウ素が主鎖に直結した特殊な構造を有するポリマーの合成に取り組み、ホウ素の特性を生かした高分子反応に基づく従来では難しかったポリマーの合成を行ってきた。本研究では、主鎖に直結したホウ素のルイス酸性に着目することでルイス塩基性部位を有する無水マレイン酸との共重合体が酸塩基相互作用に由来する側鎖間協働を発現することを見出し、直接エステル化高分子触媒として機能することを発見した。実際に、ビニルボロン酸エステルと無水マレイン酸のラジカル共重合によって得られたポリマーを用いて4-フェニル酪酸と1-ヘキサノールの直接エステル化を試みたところ、高い収率で目的のエステル化合物が得られた。主鎖とホウ素の間にスペーサーを組み込んだ骨格や酸無水物の代わりにアクリレート骨格を持つポリマーは触媒効果を示さず、側鎖間協働には適切な側鎖設計が必要なことが分かった。また、分子量効果も明確に観測され、高分子量体でなければ活性が低下する挙動も見られた。これらの結果から、主鎖に直結したホウ素の反応性を利用することで、これまでにほとんど報告例がなかった酵素様の合成高分子触媒の設計に成功した。また、予想外の成果として、様々な含ホウ素ポリマーを合成してその性質を調査している際、ホウ素モノマーとメタクリレートからなる共重合体が特定の外部刺激に応答して主鎖分解を示すことを見出した。酸化剤の作用により主鎖上ホウ素が脱離することでラジカルが生成し、隣接するメタクリレートユニットとの間でβ-開裂が進行することが原因と考えている。近年、使用時は安定でありながら特定の外部刺激によって分解を引き起こすポリマーは持続可能社会構築の観点から重要視されており、こうしたポリマーを設計する上で新しい指針を与える成果と考え、英語原著論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
側鎖間相互作用を生かした反応性の発現は、酵素のような生体高分子ではありふれている一方で合成高分子触媒においてほとんど報告例がなかった。このような背景の中、今回発見した主鎖直結ホウ素とルイス塩基性部位による側鎖間相互作用は新規合成高分子触媒を設計する上での新しい指針となりえる。直接エステル化においては既に論文執筆のためのデータをおおよそ収集し終えている状況であり、近いうちに国際誌に報告可能な状態である。加えて予想を超える成果として、主鎖に直結したホウ素をトリガーとする主鎖分解の現象をも見出しており、研究は当初の予想を越えて大きく広がりつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で当特別研究員は、ホウ素のルイス酸性を生かした従来にない合成高分子触媒の開発を試みてきた。今後の研究の推進方策として、まずは反応性が既に確かめられている直接エステル化触媒の反応性ならびにリサイクル性を向上させることを目的に、Thorpe-Ingold効果などを駆使した主鎖構造のチューニングを行う。さらにホウ素と側鎖間協働させるルイス塩基性部位を無水マレイン酸以外のコモノマーとすることでエステル化以外の反応性の探索を試みる。このようにして直接エステル化だけでなく様々な触媒活性を見出していくことができれば、側鎖間相互作用を基盤とした合成高分子触媒の設計指針を確立できるものと考え、引き続き研究を進めていく。また、主鎖に直結したホウ素をトリガーとするポリマーの主鎖分解については、現状では外部刺激として過剰量の試薬を必要とするため、より温和な条件における分解を実現するための条件探索を行う予定である。
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