研究課題/領域番号 |
22KJ1886
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補助金の研究課題番号 |
22J15206 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分38040:生物有機化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 貴斗 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
2023年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2022年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | 生物毒素 / エサ由来毒素 / 化学生態学 / 化学的防御 / Bufadienlide 類 / Rhabdophis tigrinus |
研究開始時の研究の概要 |
毒をもつ餌をあえて食べ、その毒を自身の防御に再利用する動物の例は 250 種以上の草食性昆虫、数種類のカエル、ヘビ、鳥類で知られている。日本に生息し、魚やカエルを食べるヘビ、ヤマカガシは、餌のヒキガエル由来の毒素 (BD 類) を蓄積する。ヤマカガシでは、同一の種にも関わらず、地域によって BD 類の組成が多様化している。これまで、「同種内で、生息地域によって餌由来の毒が多様化する要因は何か」を詳細に調べた研究例はない。本研究はヤマカガシに着目し、今まで取り組まれてこなかった本課題に取り組むことで、餌由来の毒をもつ生物の地理的な分布と毒素の進化の関係を考える上で有用な知見を提供するものである。
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研究実績の概要 |
・液体クロマトグラフィー (LC)/質量分析法 (MS) を用いて、日本各地のヤマカガシおよびヒキガエルの毒液の化学分析をさらに進め、ヤマカガシにおいて地域性の高い bufadienolide 類 (BD 類) を一つ見出し、精製段階まで進めた。 ・ヤマカガシに対する BD 類給餌実験により、ヤマカガシ体内における BD 類の変換反応を確認できる系を確立した。これにより、日本のヒキガエルの普遍的成分、bufalin がヤマカガシの体内で化学変換され、頸腺に蓄積されることを実験的に証明した。 ・ヤマカガシから、ゲノム DNA を外注可能なクオリティで抽出する方法を確立し、ゲノムのアセンブリおよび繰り返し配列の推定まで終え、ゲノムサイズが 4.03 Gbという結果を得た。 ・BD 類の標品や、ヤマカガシ頸腺液のメタノール粗抽出物の毒性測定を、ヒトがん細胞に対する抗腫瘍活性試験により、簡便に行うことを可能にした。本手法により、BD 類における官能基の位置や向きの一つの違いが毒性に影響を及ぼすこと、頸腺液の毒性には個体差があることが予想された。 ・ヤマカガシの捕食者である猛禽類の眼球も着実に集めることができ、眼球の入手が難しい潜在的捕食者であるイノシシの新鮮な眼球も入手できた。 ・LC を用い、 頸腺液中の BD 類の総量 (絶対 BD 量)をハイスループットに定量する方法を考案し、この手法を用いて、ヤマカガシのもつ BD 類の総量や濃度の個体差や、それらに影響を与える内在的要因を調査し、ヤマカガシの BD 類蓄積に関する重要な基礎情報を得た。本研究成果を学会で発表し、また、論文としてまとめ報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地域性の高い BD 類を一つ見出し、この化合物の単離精製を着実に進めている。 また、多数のヤマカガシの採集、飼育、bufalin 給餌実験を経て、これまで生態学的なデータからでは仮説の域を出なかった、「毒源である日本のヒキガエルの普遍的成分、bufalin がヤマカガシの体内で化学変換され、頸腺に蓄積される」ことを実験的に証明した。ヤマカガシが活動的である限られた期間でしか生物試験を実施できないことを考えると、一年目に得られた成果は大きい。 ヤマカガシの尾部付近の筋肉から DNA を抽出し、ゲノムのアセンブリおよび繰り返し配列の推定まで終え、ゲノムサイズが 4.03 Gbという結果を得ることができた。 BD 類の標品や、ヤマカガシ頸腺液のメタノール粗抽出物の毒性測定を、ヒトがん細胞に対する抗腫瘍活性試験により、簡便に行うことを可能にした点は今後の研究を展開するうえで非常に価値がある。ヤマカガシの捕食者である猛禽類の眼球も着実に集めることができており、潜在的捕食者だが、眼球の入手が難しいイノシシの新鮮な眼球も入手できた。 さらに、液体クロマトグラフィーを用い、 頸腺液中の BD 類の総量 (絶対 BD量)をハイスループットに定量する方法を考案し、この手法を用いて、ヤマカガシのもつ BD 類の総量や濃度の個体差や、それらに影響を与える内在的要因を調査し、ヤマカガシの BD 類蓄積に関する重要な基礎情報を得られた。本研究成果を素早くまとめ上げ、化学生態学分野で有名な国際雑誌、Journal of chemical ecology に掲載された成果は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
・地域性の高い BD 類の探索および同定をヤマカガシとヒキガエル両生物において進める。一年目に見出した地域性の高い BD 類の構造を最終的に核磁気共鳴法を用いて決定する。 ・ヤマカガシに対する BD 類の給餌実験により、BD 類変換能力の地域差に関して更なる情報を得る。また、BD 類給餌後のヤマカガシの各種臓器を化学分析することで、変換場所の特定を試みる。 ・ゲノムのアセンブリおよび繰り返し配列の推定まで終えたヤマカガシ DNA データのクオリティチェックを進める。また、頸腺や種々の組織における RNA シーケンスを行い、そのデータとゲノムデータを照合することで、今後の遺伝子領域の推定、ヤマカガシにおけるBD類の変換遺伝子、酵素の解明を目指す。 ・BD 類のヒト肺がん由来細胞に対する抗腫瘍活性試験を有効活用し、ヤマカガシ頸腺毒の毒性評価を継続する。また、ヤマカガシの捕食者の眼球由来Na+/K+-ATPaseに対する阻害活性測定を進める。
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