研究課題/領域番号 |
22KJ1964
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補助金の研究課題番号 |
22J21715 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
須賀 健介 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 液晶 / 分子生成 / 分子配向 / 分子配列 / 結晶化 / 高分子 / 接着 / 機械学習 / 分類問題 / in silicoライブラリ / 蛍光分子 / V字型集積構造 / MD計算 / 力場 |
研究開始時の研究の概要 |
一般に分子の化学構造のみから分子集合体のバルク物性を予測することは困難である。本研究では「LiqCryst」データセットを用い、液晶様分子に対して分子の並び方を評価する指標となる分子記述子を計算する。この分子記述子を説明変数、相転移温度・エンタルピーを目的変数とする解釈性の高い機械学習モデルを構築し、分子構造とバルク物性の相関を調べ相転移挙動や分子集合原理の理解を深める。その後得られた知見を活かして、狙った相転移挙動を示す機能性液晶材料の開発に取り組む。
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研究実績の概要 |
分子の化学構造のみから分子集合体のバルク物性を予測することは、狙いの材料を開発する速度やコストを下げる点から重要である。このようなトランススケール科学の発展を目指し、当該年度は以下の4つの研究を行った。 1.液晶のメソゲン骨格となり得るπ共役系分子を列挙するプログラムを作成した。ルールベース方式により初期骨格のπ電子数を変えずに骨格を変化させる本プログラムは、化学的に妥当な構造式を限りなく多く列挙できる。このプログラムはDFT計算や本研究課題で開発中の液晶相転移挙動の予測モデルと組み合わせ、本研究課題をさらに進展できる。 2.V字型分子FLAPシリーズの光応答性について、励起状態芳香族性の強さの観点から定量的に評価した。HOMA,ACID,NICSに加え、近年登場した指標であるFLU,MCIの観点から各種FLAPの芳香族性を比較した。この定量化はバルク材料としてFLAPが光応答を示すか否かを評価する手段のひとつとして用いることができる。 3.FLAPを高分子に組み込むことで、高分子鎖の「張り」と「ひずみ誘起結晶化」を同時並列的に追跡する手法を開発した。ひずみ誘起結晶化は高分子の自己補強メカニズムとして知られている。本手法により、ひずみ誘起結晶化がいつ・どこで発生するかを解明する手掛かりが得られることが期待できる。 4.本研究課題の最終目標である「FLAP骨格をメソゲンにもつ液晶接着材料の開発」を行った。イミン窒素を骨格に多く含めてπ骨格を電子不足にすることで、より強固なV字集積構造を示すFLAPを開発した。この分子に多数のアルキル鎖を導入し、室温で液晶相を示すFLAP分子を実現した。驚くべきことに、このFLAPは室温で圧着するだけでガラス基板に対し1 MPaを超えるせん断強度を示し、粘着剤として機能することがわかった。これは世界初の分子性粘着材料といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績にも示したように、当該年度はπ共役系分子大量生成プログラムの構築、励起状態芳香族性の評価、ひずみ結晶化を定量評価する手法の開発、機能性液晶材料の開発といった、機械学習、物理有機化学、高分子化学、材料科学の4つの観点からの進展があった。特にπ共役系分子大量生成プログラムが構築できたことで、当初想定していた「分子構造→相転移挙動」の順問題を超えて、「相転移挙動→分子構造」の逆問題に取り組む準備ができた。 また、励起状態芳香族性を定量評価できる計算手法をFLAPシリーズに適用したことで、FLAPの光応答性を活かした光機能性材料の開発に機械学習を適用する準備ができた。本研究課題の最終目標である光応答性接着材料の開発においても、本手法を用いることによる効率的な探索に期待が寄せられる。 さらに、ひずみ誘起結晶化を蛍光スペクトル変化からレシオイメージングできたという点からは、分子が配向する様子の定量評価につなげられると期待できる。例えば、液晶材料に蛍光プローブ分子をごく少量ドープすることで、液晶ドメインのサイズ分布についての情報を蛍光スペクトルから評価できる可能性がある。これは如何にして分子が集合してドメインが形成されるかを考察する一助となり、液晶化合物の相転移挙動の予測におけるメソゲンの集まり方の評価に繋げられると期待している。 それに加え、V字型骨格FLAPをメソゲンにもつ液晶化合物の開発の観点からは、流動性をもつ液晶と2つの基盤を接着する凝集力という一見矛盾した物性をもつ新しい接着材料につながった。 以上の点から、第二年度として目標であるV字型骨格FLAPをメソゲンとした液晶分子構造の選別を超えた成果が得られており、当初の研究計画以上に進展したと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、(1)分子構造を入力とし、相転移温度、相転移エンタルピーを出力できる機械学習モデルを完成させる。(2)そのモデルを解釈し、剛直部位と柔軟部位の化学構造から相転移温度を解釈し、液晶分子全般における構造-物性相関を理解する。(3)機械学習モデルの入力に励起状態芳香族の指標を加え、狙いの相転移挙動を示す液晶分子の中で光応答性を示す構造を探索する。 以上の3点を順次進める予定である。
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