研究課題/領域番号 |
22KJ1996
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補助金の研究課題番号 |
22J23016 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分38030:応用生物化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 洋平 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 酵素電極反応 / 直接電子移動 / 果糖脱水素酵素 / 生物電気化学 / 構造生物学 / クライオ電子顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
酸化還元酵素反応と電極反応を共役させることで,バイオ電池やバイオセンサを構築できる.特に,直接電子移動(DET)型反応は種々の利点を有し,世界的に注目されている.一方,本反応が可能な酵素は報告例が少なく,メカニズムの詳細も不明である.そこで,高いDET型活性を持つ果糖脱水素酵素(FDH)に着目した.本研究では,FDHをモデル酵素として用いたDET型反応に関する基礎的検討を第一の目的とする.本知見の応用展開として,高出力バイオ電池の構築を第二の目的とする.本目的を達成するため,FDHの立体構造の解明と,酵素工学的手法による高活性変異体の作製を行う.
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研究実績の概要 |
本年度は,以下の2点に焦点を当て,果糖脱水素酵素(FDH)における直接電子移動(DET)型反応を詳細に解析した. (1)クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)を活用したFDHの立体構造解明 FDHは膜結合型タンパク質であるため結晶化が困難であり,X線結晶構造解析による立体構造決定が未達の状況であった.そこで,cryo-EM及び単粒子像解析を活用し,FDHの立体構造決定を試みた.本検討に関して,cryo-EMを保有する大阪大学生命機能研究科と連携した.解析の結果,FDHの立体構造を2.5 Åという高い分解能で決定することに成功した.立体構造より酵素内部に複数存在するコファクターの位置関係が明らかになり,酵素内電子移動を定量的に解析することが可能となった.また,構造情報に基づいて酵素表面の電荷分布を計算したところ,電極との電子授受を担う電極活性部位と示唆されているコファクター近傍が,局所的に負電荷になっていることが判明した.本知見に基づいて電気化学測定を実施すると電極の表面電荷に依存して反応特性が変化し,先行研究を支持する結果が得られた. (2)トリプトファンによるDET型反応促進作用の検証 FDHの立体構造情報より,電極活性部位から酵素表面へと至る電子移動経路上に,トリプトファン及びフェニルアラニンが存在することが判明した.芳香族残基は,酵素内電子移動を促進する作用があることが知られているため,DET型反応の酵素―電極間電子移動においても,同様の機構が作用しているのではないかと考えた.そこで,これら2つの芳香族残基をそれぞれアラニンに置換した変異体を作製し,FDHのフルクトース酸化触媒反応に由来する電流―電圧曲線を記録したところ,トリプトファンを置換した変異体は特性が著しく低下していた.これらの電流―電圧曲線を速度論解析し,本特性の低下要因を定量的に評価することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
DET型反応は種々の利点を有する一方,報告例が非常に少なく,反応機構の詳細は不明な点が多い.本研究課題の目標の1つは,FDHの立体構造を解明し,DET型反応機構の本質的な理解に迫る点にある.今年度,cryo-EMを活用することで,計画通りFDHの構造解明を高い分解能で実現した.また,構造情報から酵素内部における各コファクターの位置関係が明らかになったことで,酵素内電子移動を定量的に評価する計画も達成した.それだけに留まらず,立体構造情報から,DET型反応に重要な役割を担っていると強く示唆される芳香族残基を特定した.さらに,酵素工学的手法を用いて本残基の影響を調べることで,本残基がDET型反応における酵素―電極間の電子移動を促進していることが定量的に確認された.本成果は,FDHの非常に高いDET型活性を合理的に説明可能な結果であるだけでなく,DET型反応に必要な要素を探索する上でも重要な知見である.よって,上述したDET型反応の本質的な理解という本研究課題の最終目標に合致するものである.このように,当初は想定していなかったが研究課題の目的達成に大きく貢献する成果が得られたという点で,今年度は当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は,芳香族残基に焦点を当てた高活性FDH変異体の創出と,本変異体を用いた高出力バイオ燃料電池の構築を予定している.本目的を達成するため,以下の実験を遂行する予定である. (1)芳香族残基の導入による高活性変異体の作製 FDH内部には,5つのコファクターが存在する.各コファクターの酸化還元電位及び立体構造から判明した位置情報から,各コファクター間の電子移動速度を推定することが可能である.そこで,立体構造から得られた知見に基づき,酵素 内電子移動の律速段階となっているコファクター間に,一残基置換により芳香族残基を導入する.導入する芳香族残基の種類,または置換対象となる残基を変更した新規変異体を10種類程度作製し,酵素活性の上昇を図る. (2)高活性変異体を活用したバイオ燃料電池の構築 (1)で作製した新規FDH変異体を用いることで,陽極を高性能化し,既存技術である陰極と組み合わせ,バイオ燃料電池を構築する.本電池の出力は電極構造に影響されるため,電極材料や表面修飾方法等も併せて検討する.最終的には,一平方センチメートル当たり10 mWを超える出力密度を目指す.
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