研究課題/領域番号 |
22KJ2018
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補助金の研究課題番号 |
22J23667 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分03050:考古学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
繰納 民之 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 鉄器 / 鍛冶 / 古墳 / 副葬 / 生産 / 流通 / 系統 / 製作技術 / 鍛冶関連遺物 / 古墳時代 |
研究開始時の研究の概要 |
古墳時代の鉄器は、当該期の基幹物資として生産・管理された一方、古墳の副葬品として大量に消費されている。そのため、鉄器管理体制の解明は、地域間交流、有力者間関係など、多方面から当該期の社会構造を描出し得る。 本研究は、古墳に副葬された鉄器(武器・農工漁具)および集落から出土する鍛冶関連遺物について、編年・系統論的研究を行い、当該期の鉄器の生産・流通体制を、古墳・集落の両側面から復元する。さらに、鉄器生産と非鉄器生産(木器生産・石製模造品生産)の相互に与える影響関係、生産の連動性を追究することによって、当該期の手工業生産における鉄器生産の相対的位置づけを提示し、鉄器生産の総体的解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は、副葬品および鍛冶関連遺物の研究を進めた。 ①副葬品研究については、とくに古墳時代前・中期の鉄鉾の分類・編年を進めた。資料実査は、京都府・大阪府・和歌山県・兵庫県・愛知県・静岡県・福井県・宮崎県・長野県などで行った。その結果、袋部端部・身部断面形状・袋部断面形状などをもとに分類・編年を構築し、鉄鉾の副葬時の組み合わせにいくつかのパターンが存在すること、列島各地域または古墳群ごとに副葬される鉄鉾の組成や型式が異なり、他の武器・武具の流通と連動性が認められることを明らかにした。 農工漁具研究については、これまで構築した分類・編年をもとに、各地域ごとの農工漁具の副葬様相について検討を行った。結果として、農工漁具の流通・副葬に関しては、小地域・古墳群ごとに副葬される農工漁具の系統が異なること、また同一地域・古墳群で副葬される農工漁具の系統の種類やその継続・断絶・変更の在り方が、他の器物副葬と相関する事例があることを、淀川流域などを対象に実施したケーススタディによって明らかにした。 また鉄製斧については、7月に製作実験を行い、資料実査から想定していた製作技術の実現可能性を確認するとともに、より蓋然性の高い製作技法の存在を明らかにした。 ②鍛冶関連遺物研究については、山陽・東海・九州の集成を行った。また近畿中枢部(京都府・大阪府・奈良県・兵庫県)の資料については、20機関ほどの調査機関で悉皆的な調査(実測・計測)を行った。結果として、近畿中枢部における鍛冶遺跡の変遷過程や鍛冶技術の地域性について明らかにした。さらに、各遺跡で使用される羽口型式やその組み合わせ、使用方法が遺跡・地域ごとに異なり、それら組成の変遷および増減から、近畿中枢部における鍛冶操業集団の展開過程を明らかにした。近畿外の鍛冶関連遺物の集成を一部完了し、近畿中枢部との鍛冶技術の相互関係性についてもある程度見立てをつけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
鉄鉾の研究結果は、岐阜県各務原市の熊田山北古墳群の報告書の考察(タイトル:武器・農工具からみる熊田山北 B1 号墳の性格と美濃の鉄器副葬)ならびに第19回古代武器研究会のポスター発表(タイトル:古墳時代前・中期の鉄鉾の系統とその意義)において、一部成果を報告した。 農工漁具の流通・保有・副葬様相について検討した内容は、上述した各務原市の報告書、および2024年度に刊行予定の向日市の古墳の報告書内で、一部を公表予定である。 鍛冶関連遺物の研究成果については、前年度から行っている奈良県天理市布留遺跡の検討内容を、日本考古学協会第89回総会(タイトル:鍛冶関連遺物からみた布留遺跡の鉄・鉄器生産組織)および『布留遺跡の考古学』(タイトル:布留遺跡の鍛冶操業集団の性格)内の論文にて公表した。奈良盆地の鍛冶関連遺物・鉄器の集成結果については、丸山真史氏の科研報告書内にて公表した(タイトル:奈良盆地の鍛冶と鉄器生産-家畜利用との関連-)。大阪府吹田市垂水南遺跡の検討内容については、吹田市立博物館刊行の図録内で公表した(タイトル:垂水南遺跡出土鍛冶関連遺物の評価)。 また近畿の鍛冶遺跡の総体的な動向については、第40回考古学研究会東海例会(タイトル:近畿における鍛冶遺跡の様相)にて公表した。さらに、真鍋成史氏と弥生~古墳時代にかけての鍛冶技術の変化について微細遺物から検討した内容を、国立歴史民俗博物館の報告書内にて公表した(タイトル:近畿地方における弥生時代終末の鉄器生産-微細遺物の分析を中心として)。 ただし、農工漁具で査読論文での公表を予定していた論文については、投稿に至らなかったため、「(3)やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
①副葬品研究については、古墳時代前・中期の武器(鏃・剣)の研究を進める。とくに、製作技術や意匠的な側面によって、より体系的な分類を再構築する。またこれら前・中期の武器にみられる変化や系統性は、農工漁具とも連動する。そのため、農工漁具と良好なセット関係が見いだされる古墳出土武器を中心に調査と分析を進めていき、武器・農工漁具を架橋する系統性の存在を抽出し、副葬鉄器の変遷過程をより総合的・体系的に復元する。 また、農工漁具の研究に関しては、前年度に引き続き、(A)斧の分類・編年と(B)農工具の総体的編年の2本の査読論文投稿を目指す。 農工漁具の流通・副葬に関しては、小地域・古墳群ごとに副葬される農工漁具の系統が異なること、また同一地域・古墳群で副葬される農工漁具の系統の種類やその継続・断絶・変更の在り方が、他の副葬器物と相関する事例があることを、これまでの研究で明らかにしている。本年度は淀川流域以外の、列島内の様々な地域で事例研究を重ね、当該期における副葬鉄器を媒介とした集団間関係の復元を、網羅的に行う。 ②鍛冶関連遺物研究については、近畿周縁域(滋賀県・和歌山県)・周辺域(九州・山陽・東海・関東)の集落遺跡から出土した鍛冶関連遺物の研究を進める。資料調査を行い、各遺跡で行われていた鍛冶の工程や規模を復元する。また羽口の型式組成の比較から、近畿中枢部と各地域の鍛冶技術の系譜・影響関係の有無を検討する。さらに、羽口を使用した鍛冶の復元実験も行い、古墳時代の鍛冶技術のより具体的な解明を目指す。 ③鉄器生産-非鉄器生産間の相互関係性を復元し、古墳時代手工業生産における鉄器生産の相対的位置付けを行う。具体的には、鉄製農工具と木製農工具・農工具形石製模造品の比較分析、および複合的な生産遺跡における鍛冶工房の立地・生産関係を分析することで、古墳時代における鉄器生産と他の手工業生産の関係性を読み解く。
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