研究課題/領域番号 |
22KJ2032
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補助金の研究課題番号 |
21J15177 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分08020:社会福祉学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川北 瞳 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
900千円 (直接経費: 900千円)
2023年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2022年度: 400千円 (直接経費: 400千円)
2021年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | 入院関連機能障害 / 認知症 / 高齢者 / 日常生活動作 |
研究開始時の研究の概要 |
高齢者が肺炎などで緊急入院した後に、治療が成功したにも関わらず「入院中の安静臥床」が原因で生活自立度が低下し、入院前以上に退院時の介助量が増悪してしまう事象が度々みられる。これは「入院関連機能障害」と呼ばれ、発症後の死亡率や退院後の生活自立度の回復に深刻な影響を及ぼす。 本研究は、認知症高齢者と入院関連機能障害の関係性に着目し、認知症高齢者に特化した入院関連機能障害の発症を予測する技術を考案することを目的とする。 具体的には基幹病院に緊急入院した認知症高齢者を対象に、心身機能や社会的特性を評価し、それらのうちどのような要因が入院中の自立性の低下に影響しているかを統計学的手法に基づいて同定する。
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研究実績の概要 |
高齢者が緊急入院した際に、入院の契機となった骨折や熱中症など外科的・内科的疾患が治癒したにも関わらず、入院そのものが原因で自立度が低下する場合がある。これは入院関連機能障害と呼ばれ、特に認知症高齢者においては環境の変化に対する脆弱性のため入院関連機能障害の発症が一般高齢者と比較し高いことが知られている。 本研究では認知症高齢者の入院関連機能障害に着目し、認知症高齢者の心身機能、日常生活機能、また居住形態などの社会的背景から入院機能障害の発症に強く関連している要因を明らかにすることを目指す。 そこで本年度は、まず入院関連機能障害に関する先行研究のレビューを通じて関連領域の知見に関して整理を行い、入院関連機能障害を定量的に評価するための尺度の考案に焦点をあてて研究を進めた。認知症高齢者に対する入院関連機能障害に関しては日常生活動作に着目した評価が主流であったことから、入院前および入院後の日常生活動作自立度(ADL)得点の差分を軸とした質問紙のパイロット版を作成した。これについて関係者と共有の上、総合病院にて内科的疾患を理由に入院する患者に対して質問紙を用いた評価の実施について議論を行なった。 並行して、地域在住認知症高齢者が入院を機に自立度を低下させるプロセスについて、個々の対象者に評価を行い経過を編纂した。これにより、入院の契機となる疾病・受傷を経験する前の日常生活自立度がその後の入院関連機能障害の発生に大きな影響を与えていることを臨床的事象として改めて確認した。 また、副次的取り組みとして、①『高齢者の主観的健康観に基づく新たな老年学的概念に関する研究』、②『認知症カフェと医療者(医療従事者、医療機関)の連携に関する研究』に携わった。 いずれも査読論文として国際誌に掲載された(①PLoS ONE誌, ②Journal of Alzheimer's diseases誌)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は認知症高齢者の入院関連機能障害に関連した知見を取りまとめ、また入院関連機能障害の評価尺度の考案に焦点をあてて研究を進めた。 入院関連機能障害は研究者により研究内で着目する要素が必ずしも統一されていなかったが、先行研究のレビューによりプライマリアウトカムを『入院前と入院後の日常生活自立度(ADL)』と定めることができ、これをもとに当初の目標であった評価尺度の開発に着手できた。さらにパイロット版として作成した質問紙は研究協力機関に所属する医療者ともを共有することができ、これによって入院関連機能障害を定量的に評価するという今後の研究の基礎を築くことができた。 さらに副次的な取り組みではあるが、研究課題2点について学術誌(査読付き)への掲載を果たした。 途中、出産と育児のために採用中断期間を取得した。また新型コロナウイルス感染症拡大の影響も少なからず受けたが、上記の成果を鑑み研究には一定の進展が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本年度の研究を踏まえ、認知症高齢者がもつ入院関連機能障害の発症と関連が強い要因の精査と検討を行うことを目指す。 また、新型コロナウイルス感染症対策のために研究協力機関である医療機関への立ち入りに制限が生じる可能性は依然として高い。そのため、本研究を構成する一部の調査において対象者像を地域在住の認知症高齢者へと変更することも念頭に置く。 まず、地域在住認知症高齢者について、入院・入院時・退院時と3つの時点において日常生活動作における自立度の変化を個別評価する。また、歩行・排泄・入浴などの日常生活動作のうち特にその後の入院関連機能障害の発症と関連しやすい要因について検討を行う。すなわち、入院前の日常生活における自立レベルから入院関連機能障害の発症リスク予測技術の確立を試みる。 副次的な取り組みとしては、地域在住認知症高齢者の認知症医療・ケアサービスの利用に影響しうる要因の探索を試みる。特に、全国規模で展開されている認知症高齢者の適時診断・ケア導入支援(認知症初期集中支援チーム)に着目する。認知症初期集中支援チームは2016年より全国の自治体に設置されつつあるが、半数以上の自治体ではその利用数が年間10件程度で推移している一方で、年間数十件の利用数を報告している自治体も存在する(国立長寿研究センター, 2021年)。つまり、自治体間でその利用状況に大きく差が生じている状況であるが、この差は自治体の規模のみでは説明できず、未解明の要因が関連している可能性がある。 このように次年度は、認知症高齢者の入院関連機能障害に関して本研究の核となる課題に着手しつつ、地域在住認知症高齢者の医療福祉資源の利用に関連する課題にも視座を広げたい。これらの成果は査読論文などにより公取りまとめることを目指す。
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