研究課題/領域番号 |
22KJ2063
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補助金の研究課題番号 |
21J20516 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分26030:複合材料および界面関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 和真 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2021年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
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キーワード | モルフォ蝶 / バイオミメティクス / ナノ構造 / 回折 / 光拡散 / 透過 / ディフューザー / 採光窓 |
研究開始時の研究の概要 |
光拡散材(ディフューザー)は、入射光の拡散により光を均質化する素子であり、LED照明やディスプレイ、太陽採光による省エネ、光学素子など様々な場面で役立つ。しかし、従来品は屈折と散乱で光拡散するため、「多重散乱により透過率が低く、角度制御が困難」などの課題がある。そこで本研究では、モルフォ蝶のナノ構造に基づく光拡散原理(回折広がりで光を広角拡散し、ナノの乱雑さで回折格子の虹色を防止)を透過に応用し、「高透過率・広角拡散・波長分散なし」のすべてを満たす新規ディフューザーを開発する。さらに、ナノ構造のパラメータ調整により、拡散角と方向性(等方・異方性)の制御も実現する。
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研究実績の概要 |
本年度は、昨年度試作したモルフォ型ディフューザーに残された2つの課題「拡散光に生じた十字輝線」、「角度広がりの不足」の解消を目指し、表面ナノパターンの構造設計を見直し再度試作を行った。さらに、本ディフューザーの実用化に向けて、構造パラメータ調整による拡散角と異方性の制御、ロータス効果(ハスの葉表面のナノ凹凸構造に基づく撥水効果)の導入による自浄作用の付与も行った。具体的には以下の通りである。 【ナノパターンの設計変更】 拡散光の十字輝線は矩形構造からの回折に起因し、長方形を格子状に並べたパターン設計が原因と考えられたため、非格子状のパターン設計を新たに導入した。また、角度広がりに関しては、ナノパターンの最小寸法を約350 nmから300 nmに微細化することで回折の効果を高め、「角度広がりFWHM ≧ 80°」の実現を目指した。さらに拡散角と異方性の制御のため、異方パターン(FWHM ~ 80° x 20°)と等方パターン(FWHM ~ 80° x 80°)の2種類のナノパターンを考案し、FDTDシミュレーション(電磁場数値計算)を用いて光学設計を行った。 【ロータス効果の導入】 本ディフューザーは表面ナノパターンでの回折広がりに基づくため、表面汚染に伴う特性劣化が懸念される。そこで、疎水性樹脂でかつナノインプリントに適用できるPDMS(ポリジメチルシロキサン)で表面ナノパターンを形成することで、ロータス効果により撥水性を付与し、自浄作用による防汚特性の発現を試みた。 電子線リソグラフィとナノインプリントによる試作の結果、十字輝線のない均質な光拡散と優れた光学特性「透過率 ~ 90%、角度広がりFWHM ~ 80°、波長分散なし」が得られ、目標としていた性能値を達成した。さらに、防汚特性に関しては水接触角 ~ 130°の撥水性と砂粒の自浄作用が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に信頼性の高い設計手法を構築できたため、本年度の試作でも順調に設計を進めることができた。光の回折現象から考えて、十字輝線と角度広がり不足の原因は明白であったため、それぞれ非格子状のナノパターンの導入、ナノ構造の微細化と的確に対処することで、昨年度の課題解消に成功した。また、これまでナノパターンの設計には複雑な分布関数を使用していたが、本年度は長方形の配置を工夫することで、正規分布関数のみを用いたシンプルな設計法を実現した。これにより構造最適化が容易となり、単純なスケーリングにより拡散角や異方性の制御を行うことができた。ロータス効果の導入に関しても、疎水性樹脂の中からナノインプリントプロセスに広く用いられるPDMSを選定することで、高い構造転写性と期待通りの自浄作用を得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
特性面では本年度で目標を達成できたため、次年度は実際にディフューザーを採光窓や照明などに応用し、実用化に向けた各種実証実験を行う。しかし、現在は高精度加工と試作目的のため電子線リソグラフィでナノパターンを作製しており、ディフューザーの面積はわずか6 mm角に限られる。そのため、次年度はKrFステッパーを利用して300 mmウエハにフォトリソグラフィ加工を行うことで、ディフューザーの大面積化を実現する。現在はフォトマスクの製作まで完了しており、大面積化に向けた準備を着々と進めている。 ディフューザーの構成材料であるPDMSはガラスとの密着性に優れるため、採光窓はディフューザーを窓ガラスに貼り付けるだけで実現し(接着剤は不要)、特別な施工なども不要である。そこで、大面積ディフューザーの作製後はまず採光窓の実証実験を実施する。また、照明に関しては現在文化財のフォトグラファーと協働を始めており、撮影照明への応用に向けた準備を進めている。本実験では、従来の撮影用ディフューザーとの撮影比較を行うことでモルフォ型ディフューザーの有用性を明らかにするが、本ディフューザーは従来品と異なり異方拡散が可能なので、その特性を最大限に活かした新たな照明方法を模索していく。
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