研究課題
特別研究員奨励費
重症喘息患者において、脂肪酸代謝酵素12/15-LO活性の低下が報告されている。実際に、12/15-LO欠損マウスにおいて気道炎症の増悪化が認 められているが、その炎症抑制機構の全体像は明らかではない。本研究では、12/15-LOに代謝される抗炎症性脂質の同定及び、その炎症抑制機構の解明を目指す。具体的には、高感度質量分析装置を用いて12/15-LO欠損に伴い減少する脂肪酸代謝物を特定し、これが抗炎症効果をもたらすか否かを明らかにする。さらに、上記代謝物の受容体を、シグナルに応じて発光するレポーター細胞株を用いて戦略的に探索し、標的細胞の候補を絞り込む。
重症喘息患者において脂肪酸代謝酵素12/15-LOの活性低下が報告されていたが、その因果は明らかでない。脂肪酸代謝物を対象としたマウス肺のメタボローム解析により、DHA由来の抗炎症性脂質メディエーターの産生が低下することを見出した。さらに細胞特異的12/15-LO欠損マウスを用いた解析から、特定の自然免疫細胞における炎症抑制性脂質の低下が喘息病態に寄与していることが示唆された。自然免疫型T細胞のひとつであるMAIT細胞は、肺などの粘膜組織に存在し、喘息を含む多様な免疫疾患との相関が報告されている。MAIT細胞は病原体に特有の低分子代謝物を抗原として認識し生体防御に働くが、近年組織修復などの抗炎症性作用も報告されており、このような全く異なる応答が誘導される機構は明らかでない。そこで新規活性化因子の探索を目的として、鋭敏なレポーター細胞系と高感度メタボロミクスを組み合わた方法論を樹立した。この方法を様々なマウス臓器に適用したところ、MAIT細胞に認識される抗原として内因性脂質代謝物である硫酸化胆汁酸を同定した。生合成酵素欠損マウスを樹立したところ、胸腺においてMAIT細胞数の顕著な減少が認められ、本抗原がMAIT細胞の分化に寄与することが示唆された。また、ヒト末梢血中のMAIT細胞を硫酸化胆汁酸で刺激したところ、細菌抗原で誘導される強い増殖とは対照的に、生存を延長させる傾向が認められた。実際、シングルセルRNAシーケンスを用いた解析により、本抗原がMAIT細胞の恒常性維持や組織修復に関わる遺伝子発現を誘導することが明らかとなった。
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Science Immunology
巻: 9(91) 号: 91 ページ: 100492-100492
10.1126/sciimmunol.ade6924