研究課題/領域番号 |
22KJ2103
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補助金の研究課題番号 |
22J00551 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 京都市立芸術大学 (2023) 大阪大学 (2022) |
研究代表者 |
DURAN STEPHEN ITHEL 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 特別研究員(CPD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2026年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2025年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 仏教音楽 / Buddhist Music / 声明 / Buddhist Chant / ネパール音楽 / Nepalese Music / 日本音楽 / Japanese Music |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、日本の仏教声楽の曲群の一種、サンスクリット語の詞章を有する「梵讃」の研究の国際化を目指し、世界音楽史の視野をより広げるために、「梵讃」の旋律と古代インドの音楽理論との間の関係を明らかにする。「梵讃」と同じ系統を持つネパール仏教のチャチャー修行歌とそれらに関連している曲群の収集、採譜、音楽的分析、更にその前提となる古代インドの音楽理論を突き止め、「梵讃」との比較分析を行う。本研究ではインド・ネパール・日本等、複数の文化圏にまたがる超域的な研究を遂行することによって、今までなかった視点から仏教音楽史、特に密教声楽史を考察し、“国境を越えたシルクロード音楽史”研究を実現することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本の梵讃の研究の国際化であり、世界音楽史の視野をより広げるために、日本の梵讃の旋律と古代インドの音楽理論との間の関係を明らかにすることである。本研究の対象の一つであるネパールの修行歌はcacaと呼ばれているのだが、それぞれのcacaには序曲として歌われているsloka体の短い曲がついていて、このcacaとslokaに加え、幾つかの雑曲も存在し、本年度は、これら三種類の曲についてカトマンズ渓谷にてインフォーマントから教えを受け、それらの歴史的背景にも追求した。この中で、Vajrayogini Mandalaという法要曲群の伝授も受け、四つのslokaから成立することから、日本の真言宗の四方讃と非常に似ていることが分かった。日本の梵讃の詞章の殆どが、7世紀インドのサンスクリット仏典に遡るのだが、インド史から考えた上でこの時期は、非常に不安定な状態であり、グプタ朝・バーカータカ朝のもとで支配されていた、いわゆる古典期から、政権が乱れていた中世期へ、その移り変わるところだった。日本の梵讃の原型はこの変遷時期に作成され、日本の梵讃とネパールのslokaはこの時期のやや古い詠唱方法を残しているのに対して、ネパールのcacaは、インド中世音楽を残し、これは、インドの仏教寺院の中で音楽に対する態度が、8世紀頃からインド西部で活躍したMahasiddha(大成就者)の無律法主義の影響を受け、Pasupata・Kapalika等のシヴァ派修行者の音楽と、その他の世俗音楽を取り入れたことを示しているのではないかと判明した。South Asian Studies Associationでの発表では、仏教僧侶の生活規則が纏めているvinaya(律)を参照しながら、日本の梵讃とネパールのsloka詠唱方法がブラフマンによって伝えられたヴェーダ詠唱方法にルーツを持つことを語った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度で実施した研究は、当初の計画以上に進展している理由は二つある。
一つ目の理由は、梵讃との同じ系統を持つネパールの仏教修行歌の収集が予想されたより多く出来たことである。本年度前半では、ネパール長期滞在開始前に、ネパールへ行き、渡航の準備、書籍・民族楽器の収集等をし、本研究の対象であるネパールの修行歌についてインフォーマントからレッスンを受け、9月に長期滞在が開始してからも、この研究は順調に進んでおり、修行歌のレッスンを予定通り続けている。現時点で、caca(13曲)、雑曲(3曲)、sloka (14曲)の伝授を受け、これらの五線譜による採譜も行った。
二つ目の理由は、梵讃の旋律型を伝えているネウマ譜の起源の研究の発展が出来たことである。本年度前半では、梵讃のネウマ譜・旋律型との同じ系統を持つチベット仏教声楽のネウマ譜・旋律型に関する相談を受けに、台湾国立大学音楽学部の名誉教授、Ricardo Canzio先生の自宅まで行った。そして本年度後半では、梵讃のネウマ譜の起源を探るために、ベルリン州立図書館のTurfan Collectionの中で保存されているサンスクリット語による仏教讃嘆の断片の閲覧を行い、角筆による節博士の有無について確認した。さらに、昨年度、日本の真言宗で伝えられている梵讃のネウマ譜の研究として、梵讃のネウマ譜の代表的なもの、五音博士に関する最古の口伝書、覚意の『博士指口伝事』の英訳とその解釈をし、論文にまとめてJournal of Music Archeologyに投稿したのだが、本年度前半では、査読コメントをもとにして改正・出版作業を行い、12月のJournal of Music Archeology の創刊号でこの論文が出版された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、ベルリン州立図書館のTurfan Collectionの中で保存されているサンスクリット語による仏教讃嘆の断片の閲覧を行ったが、この出張で、角筆による節博士に相当するような書き込みの僅かのものが見られ、これらが節博士であるかどうかを確認するため、広島大学の小林芳則名誉教授が敦煌資料の中に発見した角筆の節博士との比較を行わなければならない。そして、今回見ることができた断片は、タクラマカン砂漠の北方で発掘されたものになるのだが、タクラマカン砂漠の南方で発掘された讃嘆資料も沢山残っており、これらの多くのものが大英図書館に保存されているので、来年度では、これらも閲覧し、比較対象とする。
これらに加え、来年度では、チベット仏教声楽のネウマ譜も比較的研究対象として加え、梵讃のネウマ譜とチベット仏教声楽のネウマ譜との比較をすることによって、それらが伝える旋律型の名称、音楽的特徴等の共通点を明らかにし、敦煌資料の節博士も含めて、これら全てのネウマ譜と旋律型が、中央アジアから伝えられた可能性があるかどうかを確認し、そうであればどのようにして伝えられたのか、どのようにして変化してきたのか等、梵讃の研究の拡大による、新しい世界音楽史、特にネウマ譜の研究がより広がることが予想されている。大英博物館のサンスクリット語、プラクリット語等によって保存されている仏教讃嘆には、角筆によって書き込まれたネウマ譜が存在する可能性があり、それらの存在は、未だ確認されていないため、そのようなものが発掘されているのであれば、日本音楽史に非常に大きな影響を与える。
さらに、本年度から、梵讃の音楽理論の起源の研究を始め、梵讃で良く使う日本の律呂の概念に関する論文をThe Journal of Music Theoryに投稿し、査読コメントを頂き、再提出を依頼されたので、今後、この論文の改正と再提出を予定している。
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