研究課題
特別研究員奨励費
空間反転対称性が破れた半導体・半金属では、ゼロ磁場でもバンドがスピン分裂し、フェルミ面がスピン偏極したスピン・バレー結合状態が実現する。電流に対して非線形な伝導を示すため近年注目されており、薄膜試料を中心に精力的に研究されてきた。これに対し申請者らは、極性構造を持つ層状磁性体BaMnX2(X=Sb, Bi)にてバルク試料でもスピン・バレー結合状態が実現することを見出した。本研究では、BaMnX2系に対して外部一軸応力を用いることで、薄膜試料では困難だったスピン・バレー結合状態の外部制御を試みる。さらにスピン・バレー結合状態と非線形伝導の関連性を調査し、非線形伝導の起源解明や新奇物性開拓に臨む。
本研究は、極性を持つ層状擬2次元ディラック電子系BaMnX2(X=Sb, Bi)のスピン・バレー結合状態を外部一軸応力や化学置換を用いて制御し、新規輸送現象の開拓を目的とするものである。今年度は、前年度に開発した一軸応力セルを用いて、実際に応力下測定を行う予定であった。しかしながら、前年度終盤に超伝導マグネットの真空断熱層が故障し、その修理に半年以上要したため、当初の計画の遂行は困難になった。一方、化学置換による制御に関しては進展があった。前年度では、BaをSrにある量以上置換すると、磁気抵抗における量子振動周波数が急激に増大することを見出した。今年度は偏光顕微鏡による極性ドメインイメージングを様々な温度やSr置換量で実施し、構造における温度とSr置換量の相図の作成を試みた。量子振動周波数の増大が見られた組成近傍では、50K以下の低温でのみ極性ドメインの存在を示すパターンが観察された。パターンの出現温度は抵抗率温度依存性でみられる異常とよく一致しており、これらの比較から温度とSr置換量に対する結晶構造の相図の作成に成功した。一連の成果を様々な学会・研究会で発表し、強磁場関連研究会ではポスター賞を受賞した。また、今年度は研究対象を擬2次元系から3次元系にも拡張し、極性半導体SnTeに着目した。Sn欠損によりキャリアドープされたSnTeは3次元ディラック電子系であり、およそ80Kで立方晶から極性を持つ菱面体へと構造相転移する。パルス強磁場中で様々な測定を行ったところ、量子振動の観測に成功した。
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Physical Review B
巻: 107 号: 12
10.1103/physrevb.107.l121112