研究課題/領域番号 |
22KJ2139
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補助金の研究課題番号 |
22J11558 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分26050:材料加工および組織制御関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
朱 伝奇 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
2023年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
2022年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
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キーワード | 結晶成長 / 非平衡凝固 / シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
持続可能な低炭素社会を実現するためには、新しいエネルギー関連材料の開発が不可欠である。たとえば、超高温で使用できるタービンブレードは、エネルギー利用効率を向上させ、高品質のシリコン材料は太陽電池の光エネルギー変換率を向上させる。本研究は、これらの材料の凝固における微細組織の発達過程を理解することにより、溶融加工技術の改善と材料特性の向上の指針を示すことを目的とする。本研究では、組織形成過程のシミュレーションに適した数値計算法として知られるフェーズフィールド法を用いて、特にSiを含む共晶系に注目して、実験的な観察からは得られない知見と理解を得て、新しい材料の開発を加速する指針を示す。
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研究実績の概要 |
結晶材料の特性は、その微細構造に密接に関連しており、その微細構造は主に凝固過程に依存する。微細構造の制御には、結晶材料の凝固によって生じるデントライト、共晶、およびファセットという基本的な微視的パターンの形成機構の深い理解が必要である。現実的な過程を明らかにするために、信頼性の高い数値的方法も必要である。今年度の研究において、2つのフェーズフィールド法モデルを開発した。一つは、シリコン単結晶と多結晶の成長と結晶粒界の拡張のシミュレーションに用いられる。その場観察と補完的に、シミュレーションの結果は、多結晶シリコンの一方向凝固における界面張力の効果と固液界面への原子付着効果の競争的な関係について洞察を与えた。この研究成果を、日本金属学会の講演大会にて発表し、査読付きジャーナル「Materialia」に掲載された。もう一つのモデルは、合金の急速凝固のシミュレーションに用いるためのものである。急速凝固での溶質分配は平衡から遠く離れており、固液界面の振る舞いも平衡状態とは大きく異なる。本モデルによる計算結果からえられたデータを解析し、速度依存性分配係数について評価したところ解析理論とよい一致を示した。さらに、このモデルを用いることで、振動的成長を示す固液界面の再現に成功し、急速凝固合金材料で頻繁に観察される帯状構造を生成することに成功した。この成果に関する論文はフェーズフィールド法のための理論的研究で有名で最も権威ある査読付きジャーナル「Physical Review E」誌に投稿した。同誌への掲載が検討される価値のある論文として現在査読審査中である。本研究で構築したフェーズフィールドモデルは、結晶材料のパターン形成機構を解明し、先進的な材料の開発のためにその微細構造を制御するのに役立つことを期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、凝固シミュレーションの有力なツールであるフェーズフィールド法を用いて、金属合金(Al-Si、Mo-Si、Ni-Si)における複雑な共晶パターンの形成メカニズムを明らかにすることである。複雑なパターンを持つ共晶は、ファセットの相から構成されるため、複雑な場合に入る前に単純な場合から研究を 始めることが重要である。したがって、太陽エネルギー分野で大量的に利用されている多結晶シリコンの粒子構造と粒界拡張に焦点を当てた。シリコン単結晶のファセットをシミュレートできるフェーズフィールドモデルが開発された。このモデルは、任意の方位を持つ複数のシリコン粒子を組み合わせることができる。一方向凝固時にファセット面が重要な役割を果たすことが解明された。これは、多結晶シリコンの微細構造を制御するためだけでなく、ファセット相を持つ共晶の成長フロントの挙動を調査するためにも興味深い知見である。したがって、次のステップは、ファセット相を共晶モデルに組み込むことである。ただし、共晶の成長をシミュレートするには、合金フェーズフィールドモデルが必要である。シミュレーション結果の精度を考慮すると、フェーズフィールド場と濃度場の有効的な結合は課題がある。定量的なシミュレーションを行うためには、特定な数値手法が必要である。その定量的手法に関する広範な研究が行われていますが、新しい手法を発想した。このアプローチが文献で確立されたモデルと同等に優れていると信じている。現在、その合金フェーズフィールドモデルに関する論文は査読中である。次のステップは、このモデルを用いて研究の計画を継続することである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、異方性表面特性を考慮した多結晶シリコンの成長を調査するためにフェーズフィールドモデルが開発された。さらに、平衡および非平衡条件の両方をシミュレートできる合金凝固モデルが開発された。これらの成果に基づいて、今後の研究では、それらのモデルの開発を続け、結晶成長を観察するためにin-situ実験を行いながら、シリコンおよび関連している共晶をシミュレートすることを予定としている。数値および実験的アプローチの組み合わせにより、複雑な凝固パターンの形成機構についてより深い理解を得ることを目的としている。今後の研究には、次の2つの主な部分が含まれる。第1部分は、開発されたフェーズフィールドモデルの改善である。シリコン凝固に使用される現在のモデルには潜熱を考慮せず、等方性(非整合的)結晶粒界エネルギーを仮定し、実験でよく観察されるツインの発生を無視している。合金凝固については、モデルに固体中の溶質拡散や界面での溶質再分配時の溶質ドラッグ効果が含まれていない。今後の研究目的は、これらの物理効果をモデルに組み込み、凝固プロセスのシミュレーションの精度と効率を向上させることである。第2部分は、多結晶シリコンおよび関連している共晶の凝固のその場観察を行うことである。実験グループとの協力により、その場観察から得られた直接的な凝固プロセスの証拠を、フェーズフィールドモデルのシミュレーション結果と比較することができる。この研究の終わりまでに、凝固微細構造の形成中に起こる複雑な現象を説明することができる一般的な理論を提案することを目指している。
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