研究課題/領域番号 |
22KJ2152
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補助金の研究課題番号 |
22J12595 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分37020:生物分子化学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山浦 遼生 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,700千円 (直接経費: 1,700千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 自然免疫 / リピドA / Acetobacter pasteurianus / 酢酸菌 / アジュバント / グリコシル化 |
研究開始時の研究の概要 |
グラム陰性菌外膜成分リポ多糖(LPS) とその活性中心リピドAは代表的な自然免疫活性化因子であり、ワクチンの効果を高めるアジュバント作用を有する一方で、強力な炎症作用に由来する致死毒性も示す。また、現在主流の注射型ワクチンと比べ、経口・経鼻投与による粘膜ワクチンは全身免疫と粘膜免疫の両方を活性化するため病原体の感染阻止に有効であるが、粘膜アジュバントの厳密な活性制御が困難であり開発は容易ではない。本研究では安全な粘膜アジュバントの開発を目指し、粘膜組織において免疫応答を調節することが示唆される共生菌および発酵菌に着目し、発酵菌リピドAの合成および機能評価を試みる。
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研究実績の概要 |
グラム陰性菌の外膜構成成分であるリポ多糖(LPS)は代表的な自然免疫活性化因子であり、多糖構造の末端に活性中心である糖脂質リピドAが結合した構造を有する。大腸菌などの一般的な細菌のLPSやリピドAは、抗体産生増強作用などの免疫増強作用を有するが、致死毒性など強力な炎症惹起作用に由来する毒性を有する。自然免疫活性化因子をワクチンの効果を高めるアジュバントとして利用するには、炎症作用の制御が必須となる。 鹿児島大の橋本らは以前、発酵黒酢に含まれる酢酸菌Acetobacter pasteurianus由来のLPSが温和な免疫刺激活性を有し、有望なアジュバント候補であることを示した。また、A. pasteurianusリピドAが四糖骨格と複数の脂質から成る合成例が皆無のユニークな化学構造を有していることも報告された。さらには、脂質部位には構造多様性があり、4~6本の脂肪酸を有する3種類リピドAを含むことが分かった。そこで我々は、3種類のA. pasteurianusリピドAの系統的合成を行うことで、A. pasteurianus LPSの分子レベルでの機能解析を目指した。 本年度はまず、還元末端二糖(グルコサミン-グルクロン酸)に含まれる1,1-α,α-グリコシド結合の構築を試み、ボリン酸触媒を用いることで高立体選択的にグリコシル化が進行することを見出した。その後、非還元末端二糖(マンノース-2,3-ジアミノグルコース)とのグリコシル化を行い、四糖共通中間体を得ることに成功した。四糖中間体の保護基の除去と脂肪酸の導入を行い、接触水素により全ての保護基を除去することで、A. pasteurianusリピドAの系統的な合成を達成した。最後に、細胞系での自然免疫活性評価を行ったところ、6本の脂肪酸を有するA. pasteurianusリピドAが最も高い活性を示することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、合成例が皆無な3種類のA. pasteurianusリピドAの合成を達成し、さらに細胞系での自然免疫活性評価によりA. pasteurianus LPSの活性中心であるリピドAの化学構造を同定することに成功した。 本年度はまず、還元末端二糖(グルコサミン-グルクロン酸)に含まれる1,1-α,α-グリコシド結合の構築を試みた。従来のグリコシル化反応の条件でこの結合形成を試みると、四種の立体異性体が副生してしまう。そこで我々は、近年竹本らにより報告されたボリン酸触媒を用いることで二つのアノマー位の立体を制御できると考えた。ボリン酸触媒の種類、糖受容体の保護基、溶媒、温度の検討を行い、高収率かつ高立体選択的に1,1-α,α-グリコシド結合を構築することに成功した。その後、非還元末端二糖(マンノース-2,3-ジアミノグルコース)とのグリコシル化の検討を行い、二糖供与体としてフッ化糖を用いることで83%の収率で四糖共通中間体を得ることに成功した。この中間体は、直交的な保護基パターンを有するため脂質構造が異なる3種類のリピドAを作り分けることができる。四糖共通中間体の保護基の除去と脂肪酸の導入を行い、接触水素により全ての保護基を除去することで、A. pasteurianusリピドAの系統的な合成を達成した。最後に、細胞系での自然免疫活性評価を行ったところ、6本の脂肪酸を有するA. pasteurianusリピドAが最も高い活性を示し、A. pasteurianus LPSの活性中心であるリピドAの化学構造を同定することに成功した。今後は、マウスを用いた評価系により、A. pasteurianusリピドAのアジュバント活性および安全性を評価する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではこれまでに3種類のA. pasteurianusリピドAを系統的に合成することに成功した。天然のA. pasteurianus LPSは、四糖骨格に含まれる2,3-ジアミノグルコースの6位から酸性糖であるD-グリセロ-D-タロ-2-オクツロソン酸 (Ko)を介して多糖と連結した構造をとる。一方で、一般的なLPSは、Koではなく類似した構造の3-デオキシ-D-マンノ-2-オクツロソン酸 (Kdo)を含むことが多い。これまでにKdoの修飾によりリピドAの活性の向上や機能変化などの興味深い現象が報告されているが、Ko修飾リピドAの合成例は皆無であるため、リピドAの活性への影響は未だ明らかではない。そこで、A. pasteurianus Ko-リピドAの合成を行い、Koの活性への寄与を評価するとともに、アジュバントとして機能評価を目指す。 まず、A. pasteurianus Ko-リピドAの合成を行う。この化合物の非還元末端の三糖はKo、マンノース、2,3-ジアミノグルコースで構成され、それぞれの単糖フラグメントを順次グリコシル化することで三糖フラグメントを合成する。また、グルコサミンとグルクロン酸から成る還元末端二糖のフラグメントは、既に合成済みである。三糖フラグメントと二糖フラグメントをグリコシル化することで、五糖共通中間体を構築する。最後に、脂肪酸を順次導入することでA. pasteurianus Ko-リピドAの合成を完了する。 次に、細胞系を用いて自然免疫活性評価を行うことで、KoがA. pasteurianusリピドAの活性に与える影響を精査する。最後に、A. pasteurianusリピドAもしくはA. pasteurianus Ko-リピドAを抗原とともにマウスへ経口投与することで、合成化合物の抗体産生増強作用および安全性を評価する。
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