研究課題
特別研究員奨励費
現在のうつ病治療における課題の1つは、薬物治療の急性期における治療効果の低さである。そこで本研究は、即効性抗うつ作用をもつR-ケタミンの神経メカニズムを解明し、既存抗うつ薬の作用発現を早める新たな治療戦略を提唱することを目的とする。具体的には、我々がケタミン投与マウスの全脳活動マッピングにより見出した抗うつ作用に関連する候補脳領域の活性化とR-ケタミンやSSRIによる抗うつ作用発現の有無や脳内セロトニン量の増大との関連を解析する。さらに、うつモデルマウスに対する候補脳領域の活動操作とSSRI単回投与を組み合わせること等により、抗うつ作用発現までの時間が短縮されるのかを検証する。
本研究では、R-ケタミンの島皮質を介した神経メカニズムを解明することを目的としている。そこで本年度は、以下の成果を得た。①再社会化マウスの島皮質の経時的神経活動計測社会的隔離は、新奇マウスに対する恐怖反応を誘発することから、マウスを隔離飼育の後に群飼育に戻し再社会化させ、島皮質の神経活動に与える影響を検討した。ファイバーフォトメトリ法により社会性行動時の島皮質の神経活動を解析した結果、再社会化マウスは、隔離飼育マウスと同様に、物体やマウスとの接触時の神経活動の差が減弱しており、R-ケタミン投与によりマウス接触時の神経活動が有意に強く活動した。よって、社会的恐怖反応はR-ケタミンによる島皮質活性化に影響しないと考えられる。また、この活性化作用がマウスの区別に関与するかを検討すると、新奇マウスに対してケージメイトよりも有意に強い反応を示した。このことから、R-ケタミンにより回復する島皮質の神経活動が他者を区別する機能にも関与する可能性がある。②島皮質活性化のメカニズムの探索R-ケタミンの島皮質活性化メカニズムを解析するため、3週齢マウスの島皮質錐体細胞のホールセルパッチクランプ記録を行った。膜電位を-80mVに固定し、R-ケタミン投与前後の電流を測定したが、有意な変化はなかった。これにより、R-ケタミンが島皮質において、リガンド依存性チャネルを介して作用していないことが明らかになった。また、BDNF-TrkBシグナル伝達系が関与を解析するため、TrkBアンタゴニストANA-12処置マウスにR-ケタミンを投与し、行動試験を実施した。その結果、長期隔離飼育マウスにおいて、ANA-12処置はR-ケタミンによる強制水泳試験での抗うつ作用や社会性行動に関連する島皮質の活性化作用に影響せず、R-ケタミンによる島皮質活性化にBDNF-TrkBシグナル伝達系が関与しない可能性が明らかになった。
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