研究課題/領域番号 |
22KJ2179
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補助金の研究課題番号 |
22J20066 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 雅大 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 量子スピン液体 / トポロジカル秩序 / 非可換統計 / キタエフスピン液体 / イジングエニオン / 非局所相関 / マヨラナ粒子 / トポロジカル量子計算 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では格子に変調のあるキタエフスピン液体相での新奇物理現象の解明に取り組む。キタエフスピン液体とは二次元蜂の巣格子での異方的相互作用によって現れる量子スピン液体であり、スピン自由度が遍歴マヨラナ粒子と局在Z2渦に分裂することに起因して多様なトポロジカル秩序相を有し、それら秩序相は誤り耐性のあるトポロジカル量子計算への応用が期待されている。特に近年では局在Z2渦の量子効果に注目が集まっている。本研究では格子変調の影響や局在Z2渦間の相互作用を考慮し、Z2渦波動関数の空間分布とその検出について議論する。
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研究実績の概要 |
令和4年度に実施した研究では、格子欠陥のあるキタエフ磁性体においてトポロジカル秩序に保護された分数化励起の検出手法を理論的に提案した。キタエフ磁性体は、蜂の巣格子上の量子スピン液体相を記述するキタエフ模型によって有効的に記述されるフラストレート磁性体であり、それが長距離スピン秩序がない量子スピン液体状態を真に実現するとき、遍歴マヨラナ準粒子と局在フラックスという二種類のエキゾチック素励起が発現する。特に時間反転対称性が破れた系では両者は結合し、トポロジカルに守られながら非可換統計に従うイジングエニオンとして振る舞うため、その複合粒子は誤り耐性のあるトポロジカル量子計算への応用が見据えられる。しかしながら、電気的に中性なイジングエニオンはそれ自体未だ検出されていないことに加えて、通常のキタエフ磁性体において熱励起される粒子であるため、次世代型コンピュータに応用するには制御が難しいという欠点があった。 このような背景のもと、本研究では、イジングエニオンの新規検出手法を理論的に提案した。注目する粒子が蜂の巣格子上の点欠陥に強く束縛される性質を利用して、空間的に遠く離れた二つの点欠陥にそれぞれ束縛された二つのイジングエニオン間に生じる非局所相関が、量子スピン液体相において特定の局在スピン間にのみ非局所スピン相関をもたらすことを実証した。さらにその非局所(スピン)相関は、伝導基盤上に置いたキタエフ磁性体での非局所伝導度測定によって電気的に測定可能であることを示した。 本研究には二つの大きな意義が存在する。まずは、複数のイジングエニオンの同時検出が非局所相関の測定によって可能であることを示した点。もう一つは非局所伝導度測定が直接的に量子計算の基本的な操作(量子ビットの読み出し、ビット操作)に対応すると指摘した点である。これらの観点から、本研究は多くの分野に波及効果をもつ研究であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は格子に変調のあるキタエフスピン液体相での新奇物理現象の解明を目的としており、令和4年度の取り組み成果はそれに該当するものである。また次なる研究についても取り組んでおり、一定の方針が立っている。これらは研究計画書作成時に想定していた研究内容に比べてより非自明で興味深いものであり、本研究目的に沿った未解明現象が多く存在することを示唆する。したがって、本研究課題の進捗状況について、おおむね順調に進展しているという自己評価を行う。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き点欠陥の存在するキタエフスピン液体相に関する研究を行う。近年、京都大学松田グループにおいてキタエフ磁性体α-RuCl3薄膜のSTMでの表面観察実験が行われ、点欠陥を中心として長距離的な電荷振動が観測された。特筆すべきはその電荷振動は従来の準粒子干渉やフリーデル振動、格子歪由来の振動などしばしば見られる現象とはどれも対応せず、物理的起源が全く不明のままである。この極めて非自明な物理現象の起源を解明することが今後の最大の研究課題となる。一つの考えられるシナリオとして熱励起される局在フラックスの準粒子干渉を考慮すると、定性的に上記の実験観察を説明できる可能性があることをすでに見出しており、今後もその方針にしたがって研究を推進する予定である。
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