研究課題/領域番号 |
22KJ2197
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補助金の研究課題番号 |
22J20599 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分26040:構造材料および機能材料関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋本 直樹 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,400千円 (直接経費: 3,400千円)
2024年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2023年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2022年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | ハイエントロピー合金 / 水素スピルオーバー / 形態制御 |
研究開始時の研究の概要 |
ハイエントロピー合金(HEA)はバルク金属材料科学の分野で2004年に提唱された新規材料であり、従来合金には見られない特徴的な4つの核心的効果(1.ハイエントロピー効果 2.格子ひずみ効果 3.低拡散効果 4.カクテル効果)の発現から幅広い分野で注目されている。しかし、これらの効果が触媒材料としてのHEAナノ粒子にどのような影響を与えるかは未だ明らかになっていない。 本研究では、組成・表面構造などの微細構造の制御を通して核心的効果を主体的に利用することで、特異活性サイトを多数導入した、新規HEAナノ粒子触媒の開発を行う。
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研究実績の概要 |
ハイエントロピー合金(HEA)は、5種類以上の元素をほぼ当原子組成比で含み、かつ単相の固溶体を形成する材料とされている。HEAはその高い配置のエントロピーに起因する高い比強度や高温安定性・腐食耐性などの従来合金に見られない特異な物性を発現することから触媒科学を含む多くの分野で注目されている。加えて、HEAはその組成の多様性から目的の反応に合わせて精密な触媒特性の制御が可能という利点もある。しかし、HEAナノ粒子触媒という領域は黎明期であり、主として「合成法の探索」が行われている段階であり、HEA触媒の反応活性サイトの精密な制御を行っている研究は少ない。 本研究では特異活性サイトが多数導入された高活性・高耐久なHEAナノ粒子触媒の開発を目的としている。本年度においては形態制御した酸化セリウム(CeO2)担体を利用し、Co, Ni, Cu, Zn, PdからなるHEA触媒の合成を試みた。触媒担体として還元性の高いCeO2ロッドを用いたところ、担持した前駆体が急速に還元し、HEAが形成していることが示唆された。加えて各種キャラクタリゼーションからこのHEAは13核からなるサブナノクラスターであることが示唆された。 触媒特性をH2を利用したNO還元反応を利用して評価したところ、CoNiCuZnPd HEAサブナノクラスター触媒では単金属触媒と比較し、低温でNOを還元できていることが明らかとなった。 in situ XAFSを利用したNO-H2による酸化還元応答性測定において、HEAサブナノクラスターでは卑金属元素の酸化還元に由来する構造変化が起きていることが示唆され、Pd元素の価数変化が抑制されていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、触媒の微細構造制御により特異活性サイトを多数導入したハイエントロピー合金(HEA)ナノ粒子触媒の開発を行っている。当該年度では、形態制御によって(110)面を多量に露出したロッド状酸化セリウム(CeO2)を担体としCo, Ni, Cu, Zn, PdからなるHEAサブナノクラスターを合成した。 各種金属イオン前駆体を含浸法を用いてCeO2上に担持した後、水素還元することによってCoNiCuZnPd HEA担持CeO2ロッドが得られた。XPS測定やHD交換反応よりCeO2ロッドは還元性が高く、Ce3+と酸素欠陥が多量に導入されているため、水素還元中に水素スピルオーバーが急速に生じることでHEAが形成したことがわかった。EDXマッピング、in situ XAFS, FT-EXAFSカーブフィッティングなどからHEAの構造が同定され、HEAは13核からなるサブナノクラスターであることが示唆された。 CoNiCuZnPd触媒の特性をNO還元反応にて調査したところ、単金属Pd触媒と比較して大幅に向上していることが明らかとなった。In situ FT-IR, DFT計算により、HEA表面では反応基質であるNOの吸着が促進されていることが示され、これが活性向上要因であることが示唆された。 また、in situ XAFSによる酸化還元応答構造変化を調査したところ、HEAサブナノクラスターでは単金属Pdには見られない特異な構造変化をすることがわかった。XANESフィッティングによる価数の同定によりこの構造変化は卑金属の犠牲的な酸化によって誘起されていることが示唆された。 当該年度においては、国内外にて7件の発表を行い、その内3件で発表賞を受賞した。以上の結果から、当該研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究では特異活性サイトが多数導入された高活性・高耐久なHEAナノ粒子触媒の開発を目的としている。ハイエントロピー合金(HEA)ナノ粒子触媒は注目され始めているが、その核心的効果について着目し、研究を行った例は少ない。今後の研究ではHEAの核心的効果のひとつであるハイエントロピー効果を利用し、触媒への特異活性サイトの導入を志向する。 ハイエントロピー効果とは多元系合金において配置のエントロピーの寄与により固溶体相が他の相に比べて熱力学的に安定化する効果である。一般的に固溶体合金は原子半径や電気陰性度の似通った元素の組み合わせで形成する。一方で、合金化による触媒の活性向上要因として知られているリガンド効果は電気陰性度の異なる元素の組み合わせで強く発現する。 このようなトレードオフの関係を打破するため、次年度は原子半径や電気陰性度が大きく異なる金属の組み合わせからなるHEAの合成し、触媒活性の向上を試みる。特に反応活性点の候補となり得る遷移金属と、遷移金属とは大きく異なる電気陰性度や原子半径を持つ典型金属からなるHEAを合成する。これらの金属を組み合わせることで、リガンド効果や格子ひずみ効果による活性点の電子状態の制御が可能になる。本研究では還元性担体上での水素スピルオーバー現象を利用して触媒の調製を行う。一般的に典型金属は難還元性の卑金属であるが、本研究では触媒担体の形態制御によって水素スピルオーバー能を向上させることで、難還元性金属の還元を志向する。 さらに合成したHEA触媒をCO2水素化反応へと応用する。CO2水素化反応は触媒の電子状態によって選択性が大きく変化することが知られているため、遷移金属だけでなく典型金属まで構成元素を拡張したHEAを用いて触媒の活性・選択性の最適化を検討する。
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