研究課題/領域番号 |
22KJ2213
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補助金の研究課題番号 |
22J21499 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分62010:生命、健康および医療情報学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
西尾 直樹 大阪大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | 能動的推論 / ビームフォーミング / 階層的コードブック / 連想記憶モデル / 統合情報理論 / 意識 / 認識 / 自己組織化 / 連想記憶 / 神経場 / 定在波 |
研究開始時の研究の概要 |
神経生理学的な知見によれば脳の異なる部位には異なる種類の感覚の記憶が保持されている。しかし、それらの異なる種類の記憶は一つの体験や経験として統合され記録され利用されていることが知られている。脳は空間的に離れた記憶をどのように一つの記憶として統合しているのだろうか。そもそも神経細胞に記録されていると考えられている情報の実態とは何であろうか。本研究では、脳が定在波という波の物理現象を用いて情報を表現して利用しているのではないかという仮説を立てた。この仮説の元、脳の情報処理の簡単なモデルを計算機上で実装し、その挙動を調べることで先に述べた脳としての機能が再現するかを検証する。
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研究実績の概要 |
本研究では、大脳皮質全域に亘って成立する定在波という物理現象によって大脳皮質全域に亘る記憶が統合されるというモデルを立てて、数値計算によって神経回路網の力学を検証してきた。しかし、このモデルでは具体的な感覚入力や運動出力を扱う神経回路網の力学を記述できていない。そこで具体的な感覚入力や運動出力を扱うモデルとして、自由エネルギー原理を用いる。なぜならば、自由エネルギー原理の元では、運動出力も感覚入力と同様に推論の対象として統一的に扱うことができ、脳が自己組織的にその機能を分化させるという生理学的知見と矛盾しないからである。運動と感覚とは異なる脳機能として考えてきた従来の脳科学における固定観念を打ち破るものであり、この考え方は能動的推論として知られている。 能動的推論モデルの性能を評価するための具体的な課題としてビームフォーミング課題を想定する。ビームフォーミング課題において、SNRの観測が感覚入力に対応し、ビームの指向性を決定することが運動出力に相当する。今年度は、階層的コードブックを用いたビームフォーミング課題に対して能動的推論によって最適なビームを予測する研究を行った。この研究では、階層的コードブックにおいて古典的なビーム探索アルゴリズムが持つオーバーヘッドに関する課題を、最適なビームを予測することで解決した。結果として、オーバーヘッドを削減することができ、無線通信のSN比を向上させることができた。感覚入力や運動出力を予測することで課題が解決できるという点で、ビームフォーミング課題は能動的推論モデルの性能を評価するのに適していると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、大脳皮質全域に亘る神経場における感覚入力や運動出力を扱う神経回路網の力学を記述する予定であった。しかし神経場と神経場への入出力を担う神経回路網とは異なる器質を持つため、これらを統一的に扱う力学を記述することは難しいことがわかった。なぜならば、神経場の神経回路網では興奮性および抑制性の神経細胞が相互作用して信号を伝達するのに対して、神経場への入出力を担う神経回路網では興奮性神経細胞による信号伝達が主であるからである。 そこで神経場への入出力を担う神経回路網の力学を神経場の力学とは別に記述する必要が出たが、そのような力学を記述している先行研究に自由エネルギー原理があったため、自由エネルギー原理を応用して研究を進めていくことができると考える。自由エネルギー原理と神経場モデルとの接点を見出すことが課題として残されているため、進捗状況としてはやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
能動的推論と神経場モデルとの接点を見出すことが課題として残されているが、逆に言えば能動的推論に神経場モデルの考え方を輸入することができる。この点は、能動的推論が抱えている課題を解決する可能性がある。この方策によって研究を推進していくことを考える。 能動的推論では、生成モデルの内部状態の表現の幅が平均場近似によって乏しくなっていることが指摘されている。能動的推論における内部状態とは、冒頭で述べた脳の記憶に相当するものである。したがって、神経場モデルの知見を活かして、先に述べたような内部状態表現に関する課題を解決することができると考える。このために、能動的推論の内部状態と連想記憶モデルとの接点を見出すことによって、能動的推論の内部状態表現を拡張する。具体的には、連想記憶モデルや自己組織化マップにあるような記憶の「近さ」や「遠さ」に相当するものを取り入れて、能動的推論の内部状態表現やその状態遷移図に「連想」の関係を定義する。このような内部状態表現の拡張は能動的推論の予測性能を向上させると期待する。 以上の取り組みを以て、感覚・運動の力学を記述する能動的推論のモデルを拡張し連想記憶モデルとの接続を試みて、全脳の記憶・感覚・運動を統一的に記述するモデルへの足がかりとする。
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