研究課題/領域番号 |
22KJ2221
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補助金の研究課題番号 |
22J22453 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮本 孟 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,400千円 (直接経費: 3,400千円)
2024年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2023年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2022年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | 一重項分裂 / 分子集合系 / エキシトンダイナミクス / 相関三重項対 / 量子マスター方程式 / 電子カップリング / シングレットフィッション |
研究開始時の研究の概要 |
一重項分裂(SF)とは、光励起により生じた一重項励起子が、二つの三重項励起子に分裂する現象であり、太陽電池や非線形光学材料への応用可能性が指摘されている。これらの性能向上には、高効率かつ高速なSFの実現と、励起子の空間的移動も考慮した分子集合系構造の設計が必要である。申請者は、環状や樹状構造といった特異な幾何構造を持った分子集合系の不可逆的な励起子収集機構に着目した。本研究では、量子化学計算と量子ダイナミクスの手法を用いて、分子集合系の構造の幾何学的性質がSFに与える影響を理論的に解明し、励起子輸送機能の観点も含めたSF材料設計指針の構築を目的とする。
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研究実績の概要 |
本年度は、分子集合系の構造と一重項分裂(SF)特性の相関関係を明らかにするためのモデル化と設計指針の構築に取り組み、以下のような成果を得た。 SF過程が効率よく進行し、かつSFにより生じた相関三重項対の空間分布を制御するためには、SFを起こしやすい部分構造と、三重項励起子の移動先となる部分構造が共存する有限分子集合系が有利であると考えられる。そこで、分子間相互作用が局所的に変化した同一分子種からなる一次元分子集合系モデルを構築し、TT対の空間分離も条件に組み込んだ量子ダイナミクスシミュレーションを用いて、相関三重項対の空間分離に必要な条件について議論した。その結果、これらの条件の下で、相関三重項対の生成に必要な条件と空間分離に必要な条件が互いに打ち消し合う方向に働くことを明らかにした。この結果は、異なる種類の分子を含む分子集合系の設計が、効率の良い三重項対の生成と分布の制御の観点からは優れている可能性を示唆する。 また、これまでSF候補分子の探索に、単量体のS1とT1状態の励起エネルギーの間の関係を表すエネルギー準位整合条件が広く用いられてきた。一方で、分子集合系では分子間相互作用の存在によりこの順序関係が変化し、単量体レベルで有望な分子が、集合系レベルではSFの進行に不利な場合がある。そこで、一次元分子集合系に対して分子間相互作用の効果を考慮するために拡張されたエネルギー準位整合条件のモデル式を構築した。拡張されたモデル式では、N量体を形成した時のバンド幅の効果が有効的に取り込まれる形となっており、複数の要素が複雑に絡み合った分子集合系のSF過程の特徴を適切に捉え、かつ簡便で有効範囲の広い有効理論モデルの構築に向けた重要な成果であると言える。以上の成果は、現在、国際的な学術誌への論文の投稿を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に得られた成果のうち、N量体における一重項分裂(SF)及び相関三重項対解離過程も含めたエネルギー準位整合条件に対する有効理論モデルは、簡便かつ適用範囲の広い系の解析に対して、その指針となるものを与える重要な成果であると考えている。すなわち、一次元分子集合系のみならず異分子種を含む系や二次元・三次元結晶系といった系に対しても同様の戦略を用いて、複数の要素が複雑に絡み合った分子集合系構造ーSF相関の特徴を適切に捉えた有効理論モデルの構築が可能となる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、異分子種を含む分子集合系モデルでの、相関三重項対の空間的分離過程も考慮に入れた一重項分裂(SF)ダイナミクスについて検討する予定である。この系では、同種分子のみで構成されている集合系と異なり、三重項励起状態のエネルギーが低い分子(三重項アクセプター分子)を一次元分子集合系構造に組み込むことによって、SFにより生じた三重項を三重項アクセプター分子に移動させることができることから、相関三重項対の分布の制御に有効であると考えられる。また、初期SF過程は異種分子間のヘテロフィッションによって起こる。この過程では、分子軌道のエネルギーの大小関係に由来して、中間状態である電荷移動状態(カチオンアニオン状態CAとアニオンカチオン状態AC)が非対称となり、同種分子の場合と比較してさらに複雑になると予想される。分子種については、代表的なSF分子であるペンタセン分子に対して様々な置換基導入を行うことに対して単分子レベルでの励起エネルギー計算に関するスクリーニングを行い、適切な分子の組み合わせを探索する予定である。また、分子集合系のエキシトン状態については、分子間相互作用を考慮した有効理論モデルの構築を目指す予定である。
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