研究課題/領域番号 |
22KJ2277
|
補助金の研究課題番号 |
22J21420 (2022)
|
研究種目 |
特別研究員奨励費
|
配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井上 拳悟 神戸大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
|
キーワード | 含窒素ヘテロ芳香環 / ピリジン誘導体 / ハロゲンダンス / ルイス酸 / 触媒 / トリフルオロボラート / DFT計算 |
研究開始時の研究の概要 |
本年度は,ハロゲンダンスとよばれる化学変換が容易な臭素原子の移動反応に利用可能な有機触媒の合成および活性評価をおこなう。すでに開発した有機触媒と類似構造をもつ様々な触媒を合成し,その活性を評価する。構造活性相関を明らかにした後,開発した触媒が,臭素原子よりも安価な塩素原子のハロゲンダンスに適用可能かどうかを確認する。従来の条件では達成できないハロゲン原子の移動反応を達成できる触媒の開発をめざして研究する。
|
研究実績の概要 |
本研究では,ハロゲンダンスとよばれる化学変換の起点となる臭素原子を移動する反応を開発している。当初,ピリジンを出発化合物とすると,ルイス酸触媒の添加によって,臭素原子の移動反応が劇的に加速されることが明らかとなっていた。本年度は,ルイス酸の作用機構を解明した。対照実験および共同研究者によるDFT計算の結果,ルイス酸として触媒量(10 mol%)の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を用いた場合,反応系中でピリジルトリフルオロボラートとよばれる有機ホウ素化合物が発生しているとわかった。一般的に,トリフルオロボラートは,クロスカップリング反応や光レドックス反応において,化学量論量の反応剤として利用されている。本研究では,トリフルオロボラートについて,臭素原子を移動させる触媒としての新たな可能性を切り拓くことができた。なお,ルイス酸の当量の影響を調べた結果,化学量論量の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を用いると,リチウムアミドとルイス酸が反応することをNMR実験から明らかにした。 さまざまなピリジン誘導体に対して,開発した触媒を作用させたところ,従来法では達成できなかったピリジン誘導体のハロゲンダンスが円滑に進行した。これらの結果が評価された結果,本成果はアメリカ化学会ACS Catalysis誌に掲載され,雑誌の表紙としても採用された。また,上記の成果は,神戸大学プレスリリースへ掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ハロゲンダンスを著しく加速する新規触媒として,ピリジルトリフルオロボラートを開発した。研究を開始した時点で,ルイス酸として触媒量の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を加えると,ピリジンのハロゲンダンスが優位に促進される実験結果を得ていた。当初,反応の活性種として,ピリジン窒素と三フッ化ホウ素との錯生成によるピリジニウム塩を想定していた。密閉可能なNMR管を利用し,不活性ガス雰囲気下で温度可変NMRを測定したところ,予想したピリジニウム塩は発生していないことが明らかとなった。この結果から,ピリジニウム塩ではなくトリフルオロボラートが触媒活性を示した可能性を考え,対照実験をおこなった結果,トリフルオロボラートが真の触媒であり,連続的なハロゲン交換反応を促進しているとわかった。共同研究者による計算化学によって得られた結果も上記の実験結果を支持していた。ハロゲン化された基質が触媒活性種となる従来の反応機構に対して,外部から添加された触媒がハロゲンダンスを進行させるコンセプトの新規性や独創性が高く評価され,これら研究成果がアメリカ化学会ACS catalysis誌および神戸大学プレスリリースへ掲載された。本触媒について得られた知見により,今後,ハロゲンダンスの基質一般性を大幅に拡大できると期待されるため,当初の計画以上に研究が進展したと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
開発した有機触媒の構造活性相関を確かめる予定である。すでに開発したピリジルトリフルオロボラートは,幅広いピリジン誘導体のハロゲンダンスにおける触媒として適用可能であった。しかし,ピリジン以外のヘテロ芳香環やベンゼン誘導体に対しては,未だ触媒活性を示していない。したがって,多様な有機触媒の合成および触媒の活性評価について検討する。まず,ピリジンを骨格とした有機触媒の置換基を変更し,触媒活性に対してどのような影響を与えるかを調査する。触媒活性は,ブロモピリジンのハロゲンダンスをモデル反応として確かめる。また,触媒として,ピリジン以外のベンゼン,チオフェン,フラン,インドールを骨格としてもつトリフルオロボラートを合成し,最適な触媒の構造を明らかにする。触媒の構造は,単結晶X線結晶構造解析によって同定する。触媒の最適な構造が決定できれば,従来の反応条件では達成困難なベンゼンのハロゲンダンスを検討する。さらに,臭素原子よりも安価な塩素原子をもつ芳香環のハロゲンダンスもめざす。
|