研究課題
特別研究員奨励費
微生物を用いた化学物質の生産では、目的の化合物へ向かうべき炭素が菌体増殖によって奪われるということが課題として挙げられている。本研究では、代謝経路を分断することによって菌体増殖への炭素の漏出を回避し、物質生産と菌体増殖のバランスの最適化を行うことによってグルコースとキシロースから目的の化合物(1,2-プロパンジオール、レスベラトロール)を高収率で生産する技術の開発を目指す。
今年度は1,2-プロパンジオールとレスベラトロールの各目的生産物質に応じて代謝経路を分断する大腸菌株の構築を行った。1,2-プロパンジオール生産株では前駆体であるジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)を、レスベラトロール生産株ではホスホエノールピルビン酸(PEP)を蓄積させるよう代謝経路の分断をおこなうことで各生産株の構築に成功した。これらの株にWeimberg経路やDahms経路といった外来微生物保有のキシロース資化経路や目的生産物質の生合成経路に関わる遺伝子を導入することで、グルコースとキシロースの混合糖での生育及び1,2-プロパンジオールとレスベラトロールの生産を確認した。1,2-プロパンジオール生産では更なる生産量増加のために1,2-プロパンジオール生合成経路に関わる各種遺伝子を高コピープラスミドにより過剰発現させた。しかしながら、生産量の増加にはつながらなかったため、酵素の発現量が律速ではないことが示唆された。レスベラトロール生産では前駆体の一つであるマロニルCoAの供給量の増加が生産量増加に寄与すると考えられているため、本研究でもマロニルCoA供給の向上に取り組んだ。マロニルCoA合成に関わる遺伝子の過剰発現によるマロニルCoA合成強化及び阻害剤添加によるマロニルCoAの消費抑制を代謝経路分断株でおこなった。その結果いずれにおいてもレスベラトロールの生産量増加が確認され、本研究で用いている株においてもマロニルCoA供給量の増加がレスベラトロールの生産量増加につながることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度はデザインした代謝経路分断株の構築及び代謝経路分断株を用いて目的化合物の生産に成功した。また、どちらの生産物質においても生産量増加に向けた代謝改変の段階に入っており、当初の計画とおおむね一致していることからおおむね順調であると判断した。
代謝経路分断株それぞれについて13C-グルコースを用いた代謝解析をおこなうことで供給した糖が狙い通りに分配されているかを確認する。1,2-プロパンジオール生産では副産物質の合成経路の破壊を行い、より効率よく糖を利用する株の構築を目指す。また、1,2-プロパンジオール合成に必要な補酵素のバランスが生産量増加に寄与する可能性を考えており、その検討も行う予定である。レスベラトロールについては、今年度においてマロニルCoA供給が重要であることが確認できたため、マロニルCoA供給を増加させる手法の開発を行う予定である。
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Enzyme and Microbial Technology
巻: 164 ページ: 110193-110193
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Metabolic Engineering
巻: 72 ページ: 68-81
10.1016/j.ymben.2022.03.002