研究課題
特別研究員奨励費
夜間の屋外や暗い室内などで撮影された写真や動画は,視認性が低い.その視認性の低さは画像認識や解析を困難にする.暗い映像の視認性を高くするコントラスト強調法が提案されているが,ノイズの増幅や過強調を引き起こす.また,明度にのみ着目するため不自然な色が復元されるといった問題がある.一方,夜行性昆虫は数百万年もの昔から,暗闇や薄明かりの環境において,細かい動きやさらには色やパターンまでも識別する能力を磨き上げてきた.本研究では夜行性昆虫の視覚神経系の機能を理解し画像処理アルゴリズムに応用することで,暗い環境で撮影された映像の視認性・明視性を劇的に向上させる.
本研究では夜行性昆虫の視覚神経系の機能に学んだ,暗い映像の瞬時映像鮮明化法の開発を行うことが目的である.本年度は夜行性昆虫の暗視機能に含まれるエッジ強調処理,ノイズ抑制処理の開発・検討を行った.エッジ強調処理ではNaikとMurthyが提案したRGB色空間における色相保存の条件式及び植田らが提案したRGB色空間の等色相平面を用いることで,入力画像の色合いを保ちつつ画像のエッジを強調させることに成功した.さらに,今回開発したアルゴリズムは平均値や分散により高速に処理することが可能で,かつ,高性能なハードウェア(グラフィックボード)を必要としない.開発したエッジ強調処理は暗い画像だけではなく,自然画像にも有効である.そのため,従来の画像鮮鋭化手法と比較を行い,定量的な画質の評価も優れていることを確認した.この研究成果は学術雑誌に掲載された.また,これを拡張した手法も既に開発しており国内学会において口頭で発表を行った.ノイズ抑制処理についてはガウス性雑音を効果的に除去できるイプシロンフィルタを拡張した,可変イプシロンフィルタを新たに開発した.可変イプシロンフィルタでは,縦列分解による高速な最大値,最小値演算等によってフィルタ処理を近似計算することによって,高速化を実現した.このフィルタ処理は暗い画像に適用することで,暗く平坦な領域のみが平滑化される.このとき,見た目では変化はないが,暗視アルゴリズムの強調後に顕在化するノイズが抑制される効果を持つ.視覚的および数値的な画質の評価も従来の暗視アルゴリズムと比較して良好な結果を得ており,開発したアルゴリズムの有効性が確認できた.この成果は国際学会においてポスターで発表を行った.現在は映像処理向けの定量的な評価を行う仕組みを取り入れていないため,今後は多数の映像を用いた実験を行いたいと考えている.
すべて 2024 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件)
IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences
巻: E106.A 号: 11 ページ: 1385-1394
10.1587/transfun.2023SMP0003
Optical Review
巻: 30 号: 5 ページ: 516-525
10.1007/s10043-023-00838-4
巻: 29 号: 5 ページ: 396-407
10.1007/s10043-022-00760-1