研究実績の概要 |
タンパク質の機能は、他のタンパク質との結合と解離により誘起される構造変化や反応によって制御される。このようなタンパク質間相互作用(PPI:Protein-Protein Interaction)の異常は、細胞内シグナル伝達を乱し疾患の原因になる。また、タンパク質のリン酸化は、PPIの変化をもたらす主要な翻訳後修飾であり、リン酸化反応自体もPPIを介する。そのため、リン酸化反応を触媒する酵素と基質のPPI変化と、基質のリン酸化との関係を理解することは極めて重要である。 mTORC2の基質であるAktに着目し、Aktをリン酸化するキナーゼであるPDK1とAkt間の結合・解離を検出できる安定発現細胞株を作製し解析を進めた。インスリン刺激および成長因子(EGF)刺激時におけるPDK1/Akt のリアルタイムの結合変化を比較したところ、インスリン刺激ではAktとPDK1の結合は二峰性に増加し緩やかに持続する一方で、EGF刺激では一峰性に増加し速やかに基底まで戻った。反応が鋭敏なEGF刺激時において、さらにPPIとAktのリン酸化レベルの変化を網羅的に解析した。その結果、PDK1/Aktの結合条件として、AktのPHドメインと細胞膜上のリン脂質PI(3,4,5)P3との結合が必要であることを再確認し、Aktが高度にリン酸化された状態においても、EGFによりPDK1/Aktの結合が誘導されることから、Aktのリン酸化状態はPDK1/Akt PPIに影響を与えないことを明らかにした。さらに、PI(3,4,5)P3およびAktのホスファターゼ阻害剤は、PDK1/Akt PPI以外のAktリン酸化を制御するメカニズムの存在を示した。これらの結果は、PI3K/PDK1/Aktシグナル伝達の制御機構をより深く理解し、リアルタイムPPI解析の応用可能性を示すものである。
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