研究課題/領域番号 |
22KJ2357
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補助金の研究課題番号 |
22J23084 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分21060:電子デバイスおよび電子機器関連
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
西本 健司 徳島大学, 大学院創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | マイクロコム / ソリトンコム / 光周波数コム / 微小光共振器 / 五酸化タンタル / 光通信 / テラヘルツ波 / Avoided mode crossing / 分散制御 / 次世代通信 / 非線形光学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、次世代通信(5G, 6G)に適した超低雑音通信キャリアのための光源開発を目的としている。完全集積が可能なマルチキャリア光源であるマイクロコムは、キャリア同士の周波数間隔が次世代通信キャリアの周波数帯域と一致しているため、差分周波数の発生により比較的容易に次世代通信キャリアを生成することが可能である。 マイクロコムは心臓部である微小光共振器の特性次第で性質が大きく変化する。我々の目標は、目的に向けて最適化された形状の五酸化タンタル製微小光共振器を作製し、これを利用して発生したマイクロコムの低雑音化を光学的手法により行うことで、世界最高レベルに低雑音化されたマイクロコムを得ることである。
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研究実績の概要 |
今年度の研究活動では主に、1: 五酸化タンタル(Ta2O5)製微小光共振器の品質係数改善に向けた作製プロセスの見直し, 2: 結合リング型微小光共振器を利用した赤・青側デチューニング領域でのマイクロコムの発生と特性の調査, 3: 結合リング型微小光共振器を利用した雑音伝達係数操作によるマイクロコムの低位相雑音化を行った。 微小光共振器の作製実験ではプロセス全体の最終段階であるウエハ洗浄方法の最適化を行った。これまでの研究で、洗浄プロセスにおいて分解された有機物が再付着することにより生じるポリマー状物体が微小光共振器の品質係数を低下させる原因であると推察されていた。そこで、異なる複数の洗浄方法を利用して作製された微小光共振器の導波路側面形状を比較した結果、ポリマー状物体の派生を抑制する洗浄条件が発見された。 結合リング型微小光共振器を利用した実験では、隣り合う2つのリング型共振器に存在する異なる共振間の相互反発作用であるavoided mode crossing (AMX)による局所的な導波路分散のシフトを利用した。種光である励起用CWレーザーがカップルする共振でAMXを発生させた場合、従来の赤側デチューニング領域に加えて青側デチューニング領域でもソリトンコムを維持できるようになることが報告されている。これについて調査した結果、励起CWレーザーの自己冷却効果により10 dBの熱雑音低減効果が得られることを実験的に確認した。励起用CWレーザーがカップルした共振以外の共振次数でAMXを発生させた場合、ソリトン中の伝搬エネルギーの一部がdispersive wave (DW)と呼ばれる背景光へと発展する。AMXの操作によるDWの変動は熱変動から繰り返し周波数への雑音伝達係数を低減させることが可能であり、実験では繰り返し周波数の位相雑音が最大27 dB低減されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では2種類の位相雑音低減手法が検証された。これらの手法では結合リング型微小光共振器を利用することで得られるAMXによる局所的な導波路分散のシフトを活用している。ソリトンコムの生成ダイナミクスに関与する導波路分散を直接操作しているため、発生するソリトンコムの光学特性を本質的に操作することが出来るようになる。青側デチューニング領域のソリトンコムにアクセスした場合、従来の赤側デチューニング領域では得られなかった光熱効果による共振周波数の自己安定化効果が得られる。実験では繰り返し周波数の位相雑音が10 dB低減されたことを確認した。位相雑音の低減はすでに報告されているエネルギー効率向上効果と同時に得られる現象であり、低位相雑音化ソリトンの変換効率が56 %まで向上することを実験的に確認した。低位相雑音化と高エネルギー効率化は集積型次世代通信用光源にとって必要不可欠な要素であり、本成果はシンプルな系でこれらを実現するための基礎研究となる。赤側デチューニングソリトンコムの被励起共振以外でAMXによる局所分散シフトを起こした場合、結合リング型微小光共振器を利用したDWの操作は最終的に繰り返し周波数の位相雑音の低減につながる。実験では共振器上に配置したマイクロヒーターへの印加電圧操作のみで27 dBという非常に大きな位相雑音低減効果を確認した。これらの成果は、研究開始当初に予定されていた複雑なフィードバックループやパワー消費の大きい補助CWレーザーに頼ることなく位相雑音低減効果を得ることが可能となった点が重要である。 微小光共振器作製実験では損失の原因となるポリマー形状の抑制条件が判明した。しかし、高品質係数の微小光共振器作製を高い再現性で実施することはいまだ実現していない。そのため、作成過程における導波路形状の再現性に関わる要素を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
被励起共振でAMXを発生させた時に青側デチューニング領域で得られる位相雑音低減効果については、前年度に実証した赤側デチューニング領域における光スペクトルの広帯域化と合わせて論文化する。 今年度の研究で実験的に確認されたDWの操作による位相雑音低減効果は27 dBと非常に大きい値を記録した。しかし、現状ではDWのエネルギーと雑音伝達係数の間の相関関係に不明瞭な要素が残っている。DWのエネルギーはAMXを発生させる共振の次数が下がるほど原理的には大きくなり雑音伝達係数に及ぼす影響も大きくなる。しかし、DWのエネルギーが大きくなるとソリトンコムと背景光との間のエネルギー伝達量が大きくなるため、ソリトンコムの維持が難しくなる。さらに、我々が使用できる結合リング型微小光共振器の品質係数が比較的低いため、DWのエネルギー変化が高熱効果を介して共振周波数を不安定にしている恐れがある。これらの要因から現在確認しているDWモードの共振次数は実験的な限界に達していると予想される。そのため、DWのエネルギーと雑音伝達係数の間の相関関係を詳細に調査するために実験的検証だけでなく数値計算による原理的な位相雑音低減限界について検証を行う予定である。 共振器製作実験では現在、導波路側面平滑化のために導入しているフォトレジスト(PR)のリフロー処理がPRの形状を大きく変化させ、結果的に導波路断面形形状の複雑化を招いていると考えられている。そこで最終年度ではPR層の厚さを可能な限り薄く抑え、リフロー処理による形状変化の影響を最小化する手法を採用する予定である。この手法による導波路形状の再現性確保が難しい場合、リフロー処理を必要としない異なるレジスト材料の選択を行う必要があるため、前述の実験と並行して計画を行う予定である。
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