研究課題/領域番号 |
22KJ2414
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補助金の研究課題番号 |
22J00797 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
米田 大樹 九州大学, 芸術工学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 折紙工学 / 生物模倣 / うすい構造 / 脱皮 / 幾何学 / 力学 / 模型実験 / 有限要素法解析 |
研究開始時の研究の概要 |
うすい紙のような材料で作る構造は、折り紙に代表されるように、大きなシートを小さく折りたたんで収納しまた展開できるという構造利点がある。その中でも生物の膜構造のように、ある程度の厚さと弾性のある構造は、変形と弾性力の相互作用によって特別な機能を創発する事例がいくつも見つかっている。しかし、うすい構造の剛性や弾性についての研究洞察はまだ限定的である。弾性シートが特定の機能を得るための基本となる構造と、駆動の仕組みを定量的に予想する枠組みを作るために、構造と機能を利用している生物をワーキングモデルとして、力学実験、数値計算、理論解析、博物学による検証を組み合わせ、そのメカニズムを探る。
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研究実績の概要 |
薄肉構造が創発する、体積のある部材では実現困難な機能設計の仕組みを明らかにする研究目的のため、研究実施計画に沿って生物が獲得している膜構造をモデルケースとして、駆動の幾何学と力学を調べた。 まずヘビとイモムシの脱皮機能をヒントに、破断を伴わない膜の剥ぎ取り駆動に注目した。初年度の力学実験の結果を踏まえて有限要素法解析を実施し、ヘビの表皮反転の脱皮において体と外皮の隙間と摩擦力が駆動力が変化することと、イモムシのしわを作る座屈脱皮が外皮との隙間に応じた形状分岐が駆動力に影響することを明らかにした。産業で輸送や保護のために薄膜包装は広く利用されるが、対象から包装フィルムを剥がす際、強引に引き剥がすと中身が傷付いたり、破れたフィルムが残留したり、また破断すれば再利用できず廃棄物が増えるなどの問題がある。破断せず滑らかに外皮を除去する脱皮の仕組みはこの問題を解決する意義がある。また、系統がまったく異なるヘビとイモムシが最適化による収斂進化で共通する体型と脱皮機能を獲得したことの説明も試みており、工学的にも生物学的にも重要性が高い知見が得られた。 次にカブトムシなどの翅を収納する虫の翅脈の折れ構造に注目した。昆虫標本をマイクロCTで形状解析し、前縁脈が流路径に対して比較的大きな曲率半径で屈曲していることと、それを実現するためと推測される翅脈表面のひだ構造を発見した。翅は生きた組織で、折りたたんだ状態でも体液を循環させているため、折れた翅脈断面が潰れない工夫がある。航空機の可変翼など人工物にも折りたたむ機構はあるが、可動部で流路が遮断されるため、旅客機のように翼内に燃料を搭載できない問題があった。折りたたみ翅脈の仕組みは、可動部の輸液問題を解決する機構として意義がある。また折りたたみデバイスなどの変形基板においても、可動部での回路断線を防止する技術として重要で応用設計が期待されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度から継続した円柱型生物の破断しない脱皮方法については、これまで解析が困難であったイモムシのしわを伴う脱皮についても、モデリングと解析方式を調整したことで有限要素法による数値解析まで実施できた。ヘビの外皮が反転する脱皮方法と合わせ、破断しない膜の除去方法として成果を学会等で発表し、論文を執筆中である。 また、当初マイクロCT設備による三次元形状の解析について、生体の目標とする構造のみを抜き出すことが困難であった。度重なる予備実験の結果、昆虫の翅においてCTでの造影と可視化の手段が確立したことにより、翅を収納する昆虫の翅脈の構造を詳細に取得できるようになった。これにより、昆虫標本から可動部において翅脈の流路が遮断されない構造を発見することができた。 さらに、地域交流のセミナーに講師ボランティアとして招待されるなど、アウトリーチ活動も実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
翅脈を屈曲させる機構について、該当する昆虫の種サンプル数を増やし、普遍的な形状分析を実施する。並行して春季から夏季にかけ、生きた昆虫の翅脈の駆動形状をハイスピードカメラを用いて観察する。特に翅を収納する昆虫の中でも、ハンミョウなど展開状態が安定である種類と、コクワガタなど収納状態が安定形状となる種類において、翅脈構造には明確な差異が予想されるため、これらの昆虫について注目する。さらに翅の展開に、羽化による翅脈の膨張を利用した駆動を多くの昆虫が獲得していることが指摘されている。これについてもCTを用いた形状分析し実施して、流路を遮断せず体液を輸送する仕組みを明らかにする。
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