研究実績の概要 |
グラフェンに局所歪みを加えると電子があたかも磁場を受けたかのように振る舞い、この現象は「擬磁場」と呼ばれている。擬磁場を生じさせる方法の一つに、凹凸構造化(リップル化)がある。しかしながら、リップルグラフェンで見られる状態はグラフェンに通常の磁場を与えた場合に見られるランダウ準位とはエネルギーが異なっており、新たな現象として調査する必要がある。そこで本研究では、大面積リップルグラフェンを作製し、STSや角度分解光電子分光(ARPES)により電子状態を観察した。今年度は4H-SiC m面の1次元的な凹凸構造上にグラフェンを転写することにより、~13nm周期のリップルグラフェンを作製することに成功した。このサンプルは低速電子線回折(LEED), 原子間力顕微鏡 (AFM),走査型トンネル顕微鏡・分光( STM/STS), ARPESを用いて構造・電子状態が評価された。LEEDからはグラフェンが1次元周期化したことによるストリーク状の回折が観察された。AFM, STMからは実際にグラフェンがリップル構造となっていることが確認された。STSスペクトルではフェルミ準位付近に通常のグラフェンでは見られないピークが多数観察されたが、Tight-binding計算との比較から、ピークには擬磁場と基板の表面状態の両方が寄与していることが考えられた。ARPES測定では1次元周期化によるディラックコーンの複製が観察されたが、バンドの変調は見られなかった。これは、4H-SiCm面の周期性のばらつきが多く、均一でないことが原因と考えられる。以上の成果を2023年第84回応用物理学会秋季学術講演会、物理学会2024年春季大会にて口頭発表にて報告した。
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