研究実績の概要 |
日本における微小円網グモ類の潜在的多様性に注目し, 主にカラカラグモ科カラカラグモ属を対象とした分類学的研究を実施した. とりわけ, 従来の調査で見過ごされてきた湿地の水面や草地, 洞窟, そして南西諸島を中心とした離島で調査を行い, 得られたサンプルの形態形質を詳細に観察, 比較することで, 体系的な整理を行った. その結果, 既知種の4ー5倍の種多様性が存在することを見出し, うち3属7種を新種として記載した (Suzuki 2019, Suzuki et al., 2020, 2022). 特筆すべきは, 西表島から得られた1種は洞窟内部に, 本州産の2種は平野部の湿地の水面上に造網しており, いずれも森林性種の網とは構造的に異なる特徴を備えているという点である. 特に, 湿地性の2種は, 網糸の一部を直接水面に張っており, 本科における新規な網形質を見出すことができた. 水面網を張る能力について, 湿地性種と陸棲種を対象とした室内実験を実施したところ, この水面網造網能力は湿地性2種のみに固有の性質であることが確認された. また, 琉球列島においては, 島によって生息する種が置換しており, 本州ー九州に比べて高い種多様性が認められた. さらに, 2022ー23年に行った野外調査により, 大分県および徳島県の高層湿地および小笠原諸島父島からカラカラグモ属の二未記載種を発見した. これら一連の調査から, 日本列島においては多様なマイクロハビタットや複雑な島嶼部の地史により, カラカラグモ科の多様化が生じていることが示唆された. これらの成果を, 2022年10月にベトナムで開催されたアジア蜘蛛学会議にて口頭発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主要部分を占める分類学的研究に関してはおおむね順調に進展している. 研究開始当初の想定よりも多くの未知種が発見されたが, その大部分の記載をすでに完了しており, 残りの種についても記載論文の執筆を進めている. また, 生息環境や網構造, 行動形質といった生活史情報の記載もおおむね順調である. 一方, 分子系統解析についてはPCRプロトコルの検討に時間を要しており, やや遅れている状況である.
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