研究実績の概要 |
歯原性上皮細胞の新規マーカー遺伝子の探索を目的に,生後1日齢マウス臼歯を用いてシングルセルRNAシークエンスによる歯原性上皮細胞の網羅的遺伝子発現解析を行った。加えて細胞種類毎の発現遺伝子を抽出し,歯胚に発現するサイトケラチンのスクリーニングを行った。次に,生後1日齢切歯歯胚及び臼歯歯胚のパラフィン切片を作成し,蛍光免疫染色にて候補遺伝子の局在を検討した。また,発生過程のマウス臼歯からmRNAを抽出し,qRT-PCRにて候補遺伝子の発現解析を行った。加えて,サイトケラチンに関連する遺伝子性疾患と歯の表現型をヒト疾患データベースOMIMにて検索した結果,scRNA-seqでは,歯原性上皮細胞の集団は,エナメル芽細胞系列,中間層・星状網細胞,外エナメル上皮細胞に分類された。このデータ上でサイトケラチンファミリーの発現量を検討したところ,サイトケラチン(Krt)5,Krt14,Krt17が歯原性上皮細胞に高発現であり,特にKrt17は中間層・星状網細胞に特異的に発現した。加えて蛍光免疫染色を行い,Krt17は中間層及び星状網に局在することが明らかとなった。次に,サイトケラチンの歯の発生過程における発現量の変化を検討したところ,Krt17は形態形成期から分泌期に高発現であり,他のサイトケラチンとは異なる発現パターンを示した。さらに,OMIMにて検索を行った結果,Krt17の遺伝子変異に起因する症候群では,先天歯を併発することが明らかとなった。 現時点での考察として,Krt17は中間層および星状網細胞の新規マーカー分子として有用であり,本疾患の遺伝子異常は先天歯に関連することが示唆された。 現在は,Krt17発現抑制SF2細胞におけるNotch1,Notch2遺伝子の発現解析,歯胚組織内でのKrt5,Krt14,Krt17の発現パターンを明らかにするために蛍光免疫染色を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vitroにて細胞機能に与える影響と分子機序を検討した。サイトケラチン17に関しては,既に予備実験にて SF2 細胞での発現を確認していることから,siRNAによるノックダウンを行い,ノックダウン後24,48,72時間での細胞増殖能に与える影響をCell Counting Kit-8 により検討,細胞分化能に与える影響をRT-qPCRを用いて解析を行った。 現在はさらに,Krt17発現抑制SF2細胞におけるNotch1,Notch2遺伝子の発現解析,歯胚組織内でのKrt5,Krt14,Krt17の発現パターンを明らかにするために蛍光免疫染色を行っている。 以上から概ね予定通りに進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
サイトケラチンは主として二量体形成を行い機能することから,Krt17のパートナー分子同定のため,細胞免疫染色でKrt5,Krt14との共局在を確認し,免疫沈降で結合を確認する。 さらに研究が発展すれば,候補遺伝子のノックアウトマウスを用いたin vivoの実験を予定する。 歯胚に発現するサイトケラチンファミリーを明らかとすることで,細胞マーカーを同定,また細胞機能を解明し,将来的な歯の再生技術開発のための細胞分化誘導法の知見とする。
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