研究課題/領域番号 |
22KJ2478
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補助金の研究課題番号 |
22J21293 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
濱地 智之 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,400千円 (直接経費: 3,400千円)
2024年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2023年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
2022年度: 1,200千円 (直接経費: 1,200千円)
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キーワード | 動的核偏極(DNP) / 核磁気共鳴(NMR) / 磁気共鳴イメージング(MRI) / 三重項電子 / 電子スピン共鳴(ESR) / 超分子化学 |
研究開始時の研究の概要 |
動的核偏極法(DNP)は、電子スピンの偏極状態を核スピンへ移行することでNMRやMRIの感度を向上させる技術である。特に、光励起三重項電子スピンを用いた動的核偏極法(triplet-DNP)は、高温かつ低磁場でNMRやMRIの感度を向上させることができる。triplet-DNPのターゲットとして、ピルビン酸はその代謝が様々な疾患と関連しているため、その13C核スピンを偏極し、高感度な13CMRIを観測することができれば、様々な医療機関で迅速な診断を行うことができると期待されている。そこで本研究ではtriplet-DNPによってピルビン酸の13C核を高偏極化し、生体内高感度MRIの実現を目指す。
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研究実績の概要 |
NMRやMRIは非破壊的に化合物の構造を決定可能な強力な分光法であるが、その感度は絶対的に低いため、多量のサンプルや測定時間を要する。特に、MRIで観測可能な分子は生体内に多量に含まれている水分子に限られる。光励起三重項電子スピンを用いた動的核偏極法(triplet-DNP)は、高温・低磁場でNMRの感度を向上させることができる。前年度は高感度MRIを用いた医療診断において最も重要な生体分子プローブであるピルビン酸の13C核スピンをtriplet-DNPによって偏極することに成功し、高感度な13C-NMRを得ることに成功した。ところが、得られた13C核スピンの偏極率は約0.01%であり、医療応用に必要な約10%には及ばなかった。 そこで本年度はtriplet-DNPの偏極率をさらに向上させるために、合理的な分子設計によって偏極源分子の性能を向上させることに取り組んだ。従来用いられてきた偏極源のペンタセンは、その三重項電子スピンの相互作用が強く、異方的であるため、その電子スピン共鳴(ESR)スペクトルはブロード化する。Triplet-DNPによって使うことのできる磁場の範囲は限られているため、ESRスペクトルがブロードな場合、DNPの効率は低下してしまう。そこで、今年度は三重項電子スピンの相互作用が弱く、等方的な新規偏極源を開発した。従来の偏極源であるペンタセンにコンパクトな5員環、チエニル基を修飾したDTPは、三重項電子スピンがチエニル基までデローカライズすることが明らかになった。その結果、DTPの三重項電子スピンの相互作用は弱まり、等方的になったため、そのESRスペクトルは先鋭化し、強いシグナル強度を示した。DTPを用いてアモルファスマトリックスであるo-ターフェニルのtriplet-DNPを行ったところ、約8%の偏極率を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高感度MRIを創出するにあたって重要な生体分子であるピルビン酸を偏極するための方法は明らかになったが、その偏極率を応用レベルまで向上させるための戦略は不明瞭であった。従来、triplet-DNPにおいて10%オーダーの偏極率を得るためには、先鋭なESRスペクトルを示すように、偏極源の磁場に対する配向が揃った単結晶を用いる必要があった。しかし、単結晶マトリックスは生体分子プローブを導入することができないため実用性が低かった。応用のためには、様々なプローブを導入できるアモルファスマトリックスを用いることが望ましいが、偏極源が磁場に対してランダムな配向をとるためtriplet-DNPの効率は大きく低下してしまう。それに対して本研究では、偏極源分子が磁場に対してランダムな配向になるアモルファス中でも先鋭なESRシグナルを示す新規偏極源を開発するという化学的アプローチによってその解決を図った。三重項電子スピンの相互作用を等方的に弱めることでそのESRスペクトルは先鋭化し、triplet-DNP効率が向上するという発見は、様々な生体分子プローブの偏極率を応用レベルまで高めるための重要な進歩である。本研究ではアモルファスマトリックスとして疎水性のo-ターフェニルを用いており、ガラス転移点が室温より低いため、液体窒素温度にまで下げる必要があった。そのため、今後は親水性でガラス転移点が室温よりも高いアモルファスマトリックスを用いる必要があると考えられる。このように、triplet-DNPの高感度MRIへの応用に向けて、アモルファスマトリックスの高い偏極率を得ることに成功しており、マトリックスの設計指針についても明らかになっているため、おおむね研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
アモルファスを用いたtriplet-DNPの偏極率は8%まで改善されたが、応用に向けて必要な10%を超えるためにはさらなる偏極源の性能改善とアモルファスマトリックスの探索が必要だと考えられる。偏極源の性能改善に関して、三重項電子スピンの相互作用を等方的に弱めることが重要であることが本研究によって明らかになったため、三重項電子スピンが球対称でより広くデローカライズした新規偏極源を開発することが望ましい。ところが、分子骨格が球対称な場合、その三重項電子スピンの偏極率が低下し、偏極寿命が短くなることが懸念される。そこで、球対称な分子骨格に親水性置換基を修飾して球対称からわずかに歪ませることで、高い偏極率と十分に長い偏極寿命をもちつつ、先鋭なESRスペクトルを示す偏極源を開発しようと検討している。アモルファスマトリックスに関して、2分子以上の生体分子を混合することでアモルファスを形成する組み合わせが知られており、このようなマトリックスを用いることでピルビン酸を分散することを検討している。ピルビン酸の分散を確認した後、構成分子を重水素化することによってマトリックスの核スピン緩和時間の向上を図る。このように、親水性官能基を修飾した新規偏極源と室温でも長い緩和時間を有する親水性マトリックスを用いることで、ピルビン酸の13C核スピンの偏極率のさらなる向上を目指す。
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