研究課題
特別研究員奨励費
骨格筋の量や質の向上には、筋細胞(筋線維)の肥大や筋線維型(遅筋型・速筋型)の制御が不可欠である。私は筋分化の過程で筋幹細胞が互いに融合して新生筋線維(筋管)を形成する際に多能性因子netrin-4が合成・分泌されていることを見出した。また、netrin-4が筋管の速筋化に加えて筋管形成も誘導する新規多能性を有する可能性に着目し、要求する受容体ならびに細胞内シグナル経路といった詳細な制御機構の解明を目指している。研究成果は、食肉生産技術の向上や健康・スポーツ科学に貢献することが期待される。
食肉の量や質の向上には、筋線維の肥大や筋線維型(遅筋型と速筋型)の制御が不可欠である。筋線維型の制御について近年、筋幹細胞が互いに融合して新生筋線維(筋管)を形成する筋分化過程に、細胞外因子を合成、分泌することで制御される新奇機構が示された。特に筋幹細胞が合成するnetrin-4は、筋管の速筋化とともに筋管形成自体も促進する特異な因子であることを見出しつつある。そこで本研究は、netrin-4による筋線維型および筋管形成の制御に関与する受容体や細胞内シグナル経路といった機構解明を目指す。今年度は、筋芽細胞から合成されたnetrin-4が筋分化転写因子MyoDの発現を誘導し、MyoDで発現が促進される筋細胞融合に関与する膜タンパク質Myomixerを介したシグナリング軸(netrin-4→MyoD→Myomixer)によって筋分化が促される詳細な過程を検証した。netrin-4の発現抑制処理をした筋芽細胞に、netrin-4過剰発現筋芽細胞の培養上清を加えたところ、発現抑制で低下したMyoDとMyomixerの発現量は培養上清の添加によって変化しなかった。netrin-4とlaminin γ1は複合体を形成して受容体に結合する報告があるため、netrin-4 + laminin γ1→MyoD→Myomixerのシグナリング軸が予想された。続いて、netrin-4受容体のうちUnc5AとUnc5Bが筋分化に寄与するかを検証した。筋芽細胞に対してUnc5AおよびUnc5Bの過剰発現を誘導した後、フローサイトメトリーによって受容体が過剰発現している細胞とそれ以外の細胞とで分取をし、それぞれの筋分化能を比較した。結果、Unc5A過剰発現細胞のみで筋管形成能が高く、MyoDの発現量も高かった。よって、netrin-4がUnc5A→MyoDを介して筋分化に寄与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
netrin-4による筋管形成の誘導メカニズムへの関与について、netrin-4の受容体を介したシグナルリング軸が存在することを支持する結果を得たため、当初の研究計画通りに進展している。次年度では、netrin-4の受容体を介した筋管形成を誘導するメカニズムの解明について、培養系に加えて生体レベルで評価する計画を立てている。既に筋再生モデルを確立し、サンプル回収を遂行しているため、スムーズに解析を行うことができる。また、netrin-4の受容体が筋管の速筋化に寄与することを検証するために発現抑制実験を行う予定であるが、発現抑制をするための実験系構築の準備は完了している。
netrin-4がUnc5Aを介してMyoD, Myomixerのシグナルを活性化させる過程を詳細に検討する。具体的には、筋芽細胞や筋管においてnetrin-4がlaminin γ1と複合体を形成すること、複合体がUnc5Aに結合すること、netrin-4 + laminin γ1→MyoD→Myomixerのシグナリング軸で筋管形成を促すことについて評価する。さらに、細胞培養系だけではなく生体レベルでも上記シグナリング軸を介して筋分化に寄与するのか調べる。すなわち、筋再生モデルを用いて生体内の筋幹細胞が筋管を形成するプロセスでの各シグナリング軸関連因子の発現挙動を観察する。また、netrin-4受容体が速筋化に関与するかを検証する。速筋由来の筋芽細胞および筋管で高い発現量を示したneogeninとUnc5Bをターゲットとし、上記受容体が発現する筋幹細胞と発現しない筋幹細胞とで分取をする。それぞれが形成する筋管の筋線維型や速筋化に関与する転写因子(Six1、Mafs)の発現量を比較する。
すべて 2024 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件)
Aging Cell
巻: 23 号: 2
10.1111/acel.14041
Experimental Cell Research
巻: 430 号: 1 ページ: 113698-113698
10.1016/j.yexcr.2023.113698