研究課題
特別研究員奨励費
本研究は狂犬病ウイルス(RABV)が関与するストレス顆粒(SG)の意義解明を目的としている。SGとは細胞が温度変化や化学物質などのストレスを受けた際に形成される細胞質内構造物であり、近年抗ウイルス応答を引き起こすことが明らかとなってきた。RABVは神経症状を主症状とする狂犬病を引き起こすウイルスであり、現在も年間約6万人の人々が狂犬病により亡くなっている。病原性発現メカニズムは不明であるが、最近SGの関与が報告された。しかし、詳細なRABVとSGとの関連性は未だ不明である。そこで本研究では、RABV感染細胞内に形成されるSGの細胞およびウイルスへの作用を明らかにする。
強毒型狂犬病ウイルスの西ヶ原株はストレス顆粒(SG)をほとんど誘導しない一方、弱毒型のNi-CE株は顕著にSGを誘導することに着目し、SG形成能に関与するウイルス蛋白質の特定を試みた。前年度までの研究で、「狂犬病ウイルスM蛋白質の95位のアミノ酸がSG形成に関与すること」、「狂犬病ウイルスNi-CE株によって誘導されるSG形成メカニズムには宿主因子のPKR、eIF2αおよびG3BPが関与すること」、「Ni-CE株によって誘導されるSGは宿主のウイルスセンサー蛋白質として働くRIG-Iによる自然免疫応答の足場として機能し、自然免疫関連因子であるIFN-βの転写促進に関与すること」を見出した。本年度はSGと狂犬病ウイルスの増殖との関連について着目した。ゲノム編集ツールのCRISPR-Cas9システムを用いて、宿主因子のPKRをノックアウトしたヒト腎芽腫由来293T細胞(293TΔPKR)を作出し、Ni-CE株を293T細胞と293TΔPKR細胞にそれぞれ接種した際のウイルス力価を経時的に測定した。その結果、両細胞間においてNi-CE株のウイルス力価に有意差は認められなかったことから、SGはウイルス増殖能には関連しないことが示唆された。さらにSG形成とマウスへの病原性を検証するために、西ヶ原株のM蛋白質95位のアミノ酸をNi-CE株由来のアミノ酸に置換したウイルス変異株Ni(CEM95)をICRマウスに接種し、致死性を検証した。その結果、Ni(CEM95)株は西ヶ原株と比較してマウスへの致死性が減弱したことを確認した。以上より、本研究にて狂犬病ウイルスNi-CE株が関与するSGはウイルスの病原性に関与することが示された。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
J Virol.
巻: 96(18) 号: 18
10.1128/jvi.00810-22