研究課題/領域番号 |
22KJ2562
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補助金の研究課題番号 |
22J23537 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分45030:多様性生物学および分類学関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
米岡 克啓 東京都立大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,500千円 (直接経費: 2,500千円)
2024年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | シダ植物 / 独立配偶体 / 世代交代 / 生物多様性 / 適応進化 / フローラ / フローラ調査 |
研究開始時の研究の概要 |
シダ植物は胞子体と配偶体が完全に独立に生育しうることが、その大きな特徴である。シダ植物の多様性を理解するためには、胞子体と配偶体それぞれについて調査・研究を進める必要がある。しかし、配偶体は微小で形態的特徴に乏しく、形態に基づく種同定が困難だったため、胞子体については個々の種の詳細な分布が既に得られている日本国内においても、配偶体の地理分布や多様性は殆ど分かっていない。本研究ではシダ植物の配偶体世代を中心に,そのフローラの一端を解明し,野外における配偶体集団のふるまい,シダ植物の多様化メカニズムに対する配偶体世代の役割を多角的に調べる研究である.
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研究実績の概要 |
シダ植物は、胞子体と配偶体が完全に独立して生育できることが大きな特徴である。シダ植物の多様性を理解するためには、胞子体と配偶体の両方について調査・研究を進める必要がある。しかし、配偶体は微小で形態的特徴が乏しく、形態に基づく種同定が困難なため、胞子体について詳細な分布情報が得られている日本国内においても、配偶体の地理分布や多様性はほとんど分かっていない。そこで本研究では、野外で長期間にわたり配偶体世代を維持する「独立配偶体」を足がかりに、日本列島におけるシダ植物の配偶体フローラ(どのような種がどこに分布しているか)を解明し、配偶体世代も含めたシダ植物の多様性に対する理解を深めることを目指した。 採用2年目の2023年度は、特にチャセンシダ科ホウビシダ属の配偶体多様性に焦点を当て、その配偶体の形態と機能、生活史の多様性について重点的に調査した。シダ植物の適応進化に関する研究の大部分が、主として胞子体に注目して行われている中で、世代分離に特徴づけられるシダ植物の見逃され続けてきた配偶体多様性に焦点を当てた研究は非常に珍しい。本研究では、特に種が利用している生態ニッチスペースごとに配偶体多様性のパターンが見られるのではないかという仮説を立て、その検証を行った。シダ植物の配偶体は微小で形態的特徴に乏しく、生活環における割合が胞子体世代に比べて非常に短いと考えられてきたため、従来の多様性研究ではほとんど注目されてこなかった。しかし、配偶体レベルでの適応進化の検証に成功すれば、シダ植物の多様性分野に新しい視点を提供し、世代分離に特徴づけられる生物の進化プロセスに対する理解が深める突破口になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本産ホウビシダ属7種と、旧熱帯のホウビシダ属3種の胞子体を集めて、その配偶体形態と機能の解析を始める準備を整えた。日本産ホウビシダ属に関しては、3月までにヒメタニワタリを除く全ての種を採集し、そのうち6種の配偶体形態や機能の測定を行うことに成功した。海外のホウビシダ属植物に関しては、現在海外の共同研究者が所属している台湾・中央研究院や国立清華大学に保存されている状況であり、法的手続きが完了次第、現地の研究者と連携しながら配偶体形態や機能に関する情報を取得していきたいと考えている。配偶体生活史の多様性に関して、私はこれまでに野外で長期的に生育していると考えられる「配偶体マット」に注目して、その種構成を日本各地で明らかにする研究を展開してきたが、このとき作成したデータセットを活用することで、系統全体の生活史を推定するフローを開発することに成功した。そのフローに当てはめて考えると、日本産ホウビシダ属のうち、岩上生種群においては配偶体形態の顕著な多様化に伴って、配偶体が極めて長寿な独立配偶体を形成することができると分かり、対照的に地上生種群においては、配偶体は心臓形に近い形態をとり、配偶体のマット化(独立配偶体化)を伴う生活史の転換は全く見られない。そして、そのような配偶体の形態、機能、生活史の多様性パターンは単系統性を示さず、進化の過程で繰り返し選択されてきた可能性があると分かってきた。以上の研究成果は日本植物分類学会@仙台大会で発表され、口頭発表賞の受賞に繋がった。
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今後の研究の推進方策 |
日本産ホウビシダ属のように、ある特定の系統においてその近縁種群が地上や岩上、渓流帯など幅広い生育地に適応している種群に注目すれば、高い確率でこれまで認識できていなかった配偶体の多様性を捕捉できることに気が付いた。今後はこの観点で調査を継続・推進していくことを計画している。既にこれまで独立配偶体を形成できないと考えられてきた系統の中に、配偶体形態と機能を特殊化させて、短命な心臓形配偶体から長命な独立配偶体へと生活史の転換を起こした系統が存在することが分かってきたので、この方向性で研究を推進させることで、新規独立配偶体を次々見出すことができると考えられる。 2022年から継続して行っている配偶体のフローラ調査に関して、最終年度にあたる2024年度は空白地帯となっている琉球列島北部や九州地方、四国地方など日本の暖温帯地域を中心に重点的に調査していきたいと考えている。また、これまで発見した成果を国際論文として次々出版していきたいと考えており、今後シダ植物の配偶体の多様性研究を展開していくために必要な基盤の整備に全力を挙げて取り組んでいく予定である。
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