研究課題
特別研究員奨励費
本研究では、トポロジカル近藤絶縁体(TKI)候補物質であるSmB6とSmSにおいて、核磁気共鳴(NMR)測定を用いてTKI特性を探索する。当該年度は、新たに33S濃縮のSmS単結晶試料を作製し、高圧下での電子状態の理解に重要な格子変化について明らかにする。また、フェルミ準位近傍の状態密度を反映する核スピン-格子緩和時間(T1)とナイトシフトの印加磁場の異方性を測定することで半導体領域のバンド構造を詳細に調べる。SmB6においては薄膜試料のNMR測定に挑戦し、表面状態に期待されるTKI特性の抽出とその定量化を試みる。
価数揺動物質SmSは、圧力印加にともない常磁性半導体から反強磁性金属へと転移することが知られ、半導体領域ではトポロジカル絶縁体特性を持つことが理論研究から示唆され注目を集めている。前年度は、1.5 GPa(半導体領域)において、核スピン-格子緩和率(1/T1)の詳細な解析のために、データ駆動型解析手法であるベイズ推定法を当該分野では初めて導入した。ベイズ推定法を導入することで、これまでの最小二乗法による解析では困難であった多成分を含む緩和曲線であっても成分数を定量的に決定することができ、分布を含む1/T1の温度依存性を見積もることに成功した。その結果、バルクのバンド構造を反映した高温での1/T1はほとんど圧力依存性を示さず、半導体領域と磁気秩序領域の両方に共通してフェルミ準位近傍に非常に狭いバンドを持つ状態であることを明らかにした。半導体領域では、低温では微小なギャップの存在を観測したが不均一性が大きく、また残留状態密度を持つ特異な状態を示唆する結果を得た。磁気秩序領域では、低温での反強磁性転移に向かって降温に伴う磁気モーメントの揺らぎを観測した。さらに、反強磁性秩序相において磁気転移に伴う2相共存を示すNMRスペクトルの解析にもベイズ推定法を導入することで成分分離に成功した。その結果、4.2 GPaでは磁化の増大がないまま反強磁性転移を示すことを明らかにし、この磁気秩序が局在モデルの枠では理解できないと結論した。このことは、前年度に行った最大2.6 GPaまでの高圧下帯磁率測定の結果とも合致する。ここまでの1/T1とナイトシフトの温度依存性は、f電子系の化合物における磁気秩序の描像として一般的に予想される局在描像では説明できず、むしろ遍歴反強磁性体的な特徴を持つことを示唆する結果を得た。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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