研究課題/領域番号 |
22KJ2631
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補助金の研究課題番号 |
22J15201 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
辻 流輝 兵庫県立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
採択後辞退 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,700千円 (直接経費: 1,700千円)
2023年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
2022年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
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キーワード | ペロブスカイト太陽電池 / 炭素電極 / 無機材料 / カーボン / カーボン電極 / 酸化ニッケル / 金属酸化物 / 正孔輸送材料 |
研究開始時の研究の概要 |
ペロブスカイト太陽電池(PSC)は印刷・塗布プロセスで容易に作製され,市販のシリコン太陽電池に匹敵する高い光エネルギー変換効率を持つことから,近年非常に注目されている.PSCの更なる高性能化・実用化のため,太陽電池を構成するナノ多孔質金属酸化物電極の高機能化は非常に重要である.本研究ではPSC内部に,カーボン電極,ナノ粒子状金属酸化物を導入することで耐久性の向上および理論限界である1.2 Vの開放回路電圧が期待され,変換効率20%が可能となる.さらに,日本最大級のシンクロトロンの使用,高速印刷/塗布プロセスなどの先進的な分析手段と革新的な作製手法を確立することで,価値ある学術研究を展開できる.
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研究実績の概要 |
まず、ソルボサーマル合成法によって20 nmの酸化ニッケル(NiO)ナノ粒子を合成し、多孔質NiOペーストおよび5-50 wt.%のNiOを添加したカーボンペーストを作製した。NiOペーストおよびNiO添加カーボン電極を多層多孔質型ペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層および背面電極に適用した。NiO層のみを適用した場合、正孔輸送能力が大幅に向上し、特にデバイスの短絡電流密度が向上することがわかった。一方で、NiO添加カーボン電極のみを適用した場合、特にデバイスの開放電圧が向上することがわかった。このように、NiOを異なる形でデバイスに適用することで、それぞれ異なるデバイス特性を引き上げることができた。この研究結果を元に、NiO層およびNiO添加カーボン電極の両方を同時に適用した太陽電池デバイスを作製したところ、NiOなしの13.02%から、NiOありで15.2%まで光電変換効率を向上させることができた。この数値は、本太陽電池の中でも世界トップクラスの効率である。上記の結果について、デバイス性能向上と材料特性の相関性を調べるために、シンクロトロン軟X線をはじめとする種々の材料物性分析を行った。軟X線を用いた価電子帯評価の結果、NiOを10 wt.%追加したカーボン電極の状態密度が変化していることが明らかとなった。これは、NiO粒子が炭素上に存在することで、電子摂動が生じたことを示唆しており、金属酸化物と炭素を混合することで、目的のエネルギーレベルの電極材料が得られる可能性を示しており、この影響でデバイスの開放電圧が向上したと考えられる。多層多孔質型ペロブスカイト太陽電池は、炭素電極を使用することによる低い電圧がネックであったが、これらの材料・デバイス設計によってこの短所を克服できることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、1年間のみの研究期間となったため、当初の申請研究の全てを実施することはできなかった。しかし、一つの目的であった大型太陽電池モジュールを完成させることができた。 開発した電極材料を、スウォンジー大学との共同研究によって、224 cm2の大面積モジュールに適用した(研究室サイズの素子は1.2 cm2)。太陽電池の電極作製は、大型化が容易なスクリーン印刷法で実施するため、大面積モジュールでも簡単に作製することができ、作製した電極材料が大面積化可能であることがわかった。作製した224 cm2モジュールの効率はNiOを適用することで、9%から12%まで大幅に向上させることができた。以上の結果から本研究では、材料開発、そのデバイスへの適用、さらに大面積化まで、おおよそ研究計画に従って、包括的に研究開発を実施することができた。 1年間ではあったが、当初の研究計画以上の結果を得ることができたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、多層多孔質型ペロブスカイト太陽電池の課題であった低い光電変換効率を最大で15.2%(1.2 cm2研究室サイズ)、12%(224 cm2モジュールサイズ)まで改善することができた。しかしながら、実用化を考えると、18%以上の光電変換効率がモジュールサイズで必要であり、光電変換効率の部分でまだ課題がある。これは、炭素電極を使用することによる低い導電性、低い正孔輸送能力、ペロブスカイト結晶の品質などに影響している。低い導電性については、炭素電極の密度やグラファイト・カーボンブラックの混合比を制御することで改善可能であり、正孔輸送能力は酸化ニッケルなどの金属酸化物に高機能有機材料を添加するなどして向上可能である。また、ペロブスカイト結晶の品質については、多孔質ZrO2層の緻密な空間に大きな結晶を成長させることが難しい。そのため、高品質結晶の作製には、ZrO2層のナノ粒子空間の制御や、添加剤の添加による溶液の改質などが方策として考えられる。 これらの技術を組み合わせることで、実験室サイズでの素子が光電変換効率20%程度まで向上させることができると考えられる。太陽電池モジュールサイズに関してはまだ改善が必要であるが、実験室サイズで満足な光電変換効率が得られれば、モジュールでも高い効率の達成が可能であると考えられる。 今後は、これらの推進方策をもとに、実用化に向けた太陽電池デバイスの開発および学術的研究を推進したい。
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