研究課題
特別研究員奨励費
本研究は肺癌を対象としたChimeratic Antigen Receptor(CAR)-T細胞を開発し、T細胞疲弊の分子メカニズムを解明するとともに、疲弊を解除ないしリプログラムする方法を開発するものである。さらに単なる技術開発にとどまらず、メモリーT細胞の分化およびその可塑性に関する基本原理の理解をめざすことを目標とする。加えて今回の研究は、肺癌免疫療法における新しい治療戦略を導き、その臨床応用により多くの肺癌患者のみなならず固形癌患者の長期予後の改善に寄与できると考えている。
本年度において、T 細胞疲弊の調節因子として知られる NR4a に着目し、NR4a をノックアウトした CAR T 細胞を作成し、フローサイトメトリーにて疲弊化に関連する細胞表面マーカーの測定、in vitro でのがん細胞との共培養後の killing assay モデルによる抗腫瘍効果の検討を行った。上記試験管モデルでの実験により、NR4a ノックアウト CAR T 細胞の高い抗腫瘍効果を実証し、年度の中盤からはNSGマウスを用いて、マウスモデルにおけるNR4a ノックアウトCAR T細胞の抗腫瘍効果を評価した。同実験系においてもNR4a ノックアウト CAR T 細胞は強い抗腫瘍効果を示すことが明らかになった。またNR4a ノックアウト CAR T 細胞の代謝能に関しても、Flux analysis、Mito Trackerを用いて評価を行い、NR4a ノックアウト CAR T 細胞は、ミトコンドリアの活性化と活性酸素の発現上昇、酸化的リン酸化の亢進による強いATP産生能を有する事を実証した。同CAR T 細胞の RNA シークエンスの解析でも、NR4a ノックアウト CAR T 細胞はミトコンドリア関連遺伝子の発現上昇、memory phenotype に関連する遺伝子の発現亢進を認めた事に加え、癌細胞との共培養後の RNA シークエンスでは、IFN-γに関連するpathwayの亢進と疲弊関連遺伝子の発現低下を認め、これまでの研究と矛盾しない結果を確認した。今後はシングルセルRNAシークエンスを行い、NR4a ノックアウト CAR T 細胞の遺伝子発現を詳細に評価することに加え、NR4a がミトコンドリアに及ぼす影響とその関連遺伝子について研究を継続する予定である。成果報告として昨年末に、第51 回日本免疫学会学術集会での筆頭演者でのポスター発表と学内講演を行った。
2: おおむね順調に進展している
試験管モデル、動物モデルにて期待した結果が得られ、免疫学会にて発表できる程度のデータ量が得られているため。
今後はシングルセルRNAシークエンスを行い、NR4a ノックアウト CAR T 細胞の遺伝子発現を詳細に評価することに加え、NR4a がミトコンドリアに及ぼす影響とその関連遺伝子について研究を継続、論文化を目指す予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
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