研究課題/領域番号 |
22KJ2738
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補助金の研究課題番号 |
22J00005 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分01050:美学および芸術論関連
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
田ノ口 誠悟 国際基督教大学, 教養学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | コスモポリタニズム / 演劇 / 舞台演出 / 映画シナリオ / 戦争と文学 / 文化外交・文化交流 / ジャン・ジロドゥ / 世界文学 / 国際演劇 / ピエール・ロティ / エキゾティシズム / スペクタクル |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、20世紀前半のフランス演劇の国際化を研究する。この時期の仏演劇はクローデル、ジロドゥなど文学戯曲の時代とされるが、社会の変化に目を向ける時、国際化が重要になる。第一次大戦後国際主義思想が流行し、演劇界にも影響した。その結果異文化を主題とする戯曲や世界の観客に理解される普遍的な演出形式の創造が求められ、国際演劇祭や外国巡業も活発に行われた。上記劇作家も顕著な異国趣味を持っている点でこの潮流と無関係ではなく、20世紀後半に登場する移民劇作家、演出家(ベケットやピーター・ブルック)はその延長線上にある。本研究では、劇作、演出とともに、劇場制度、演劇環境も研究しこの国際化を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本年度は研究成果を以下の二つの論文として発表した(いずれも出版された研究書(共著)に寄稿した論文)。①「ジャン・ジロドゥ:もう一人の「外交官作家」」(大出敦編『クローデルとその時代』、水声社、2023年6月)、 ②「言葉、プロパガンダ、映画 :ジャン・ジロドゥの言語観とその映画作品の関係」(澤田直など編『レトリックとテロル:ジロドゥ/サルトル/ブランショ/ポーラン』、水声社、2024年3月)。また同時に、下記の研究発表を実施した。①「La pratique du theatre universel par Jean Giraudoux et Louis Jouvet sous l'Occupation nazie (ナチス占領下におけるジャン・ジロドゥとルイ・ジューヴェの世界演劇の実践)」(ブリュッセル自由大学ワークショップ「比較のドラマトゥルギー」、2023年8月)、②「言葉、プロパガンダ、映画 :ジャン・ジロドゥの言語観とその映画作品の関係」(日仏会館シンポジウム「レトリックとテロル」、2023年10月。上記論文②と同内容)。③「フランスにおける人形劇と演劇:過去と現在」(下北沢国際人形劇祭レクチャー、2024年2月)。他に、小田中章浩著『戦争と劇場:第一次世界大戦とフランス演劇』を巡る合評会でパネル発表を行った(西洋比較演劇研究会例会、2024年1月)。 本研究のテーマ「20世紀初頭のフランス演劇の国際化」について、その核とも言える部分を公表することができた。論文①では劇作家ジロドゥの、国際協調主義の外交官としての仕事とその国際主義思想、及びその劇作品との関係を明らかにした。論文②では同ジロドゥの映画シナリオが、同時代の文学の国家主義に対するアンチテーゼであったことを示した。他にも発表①のように、博士論文の内容を国際研究集会で新たな視点から公表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画の第二年度である2023年度は、20世紀初頭のフランスにおける演劇翻訳(外国語戯曲の翻訳、外国作品の翻案)や劇作法、テクストの国際化というテーマについて研究する予定だったが、当初期待した以上の成果を上げることができた。論文「ジャン・ジロドゥ:もう一人の「外交官作家」」では、ジロドゥという劇作家がドイツによる占領という国難の中で外交官として交流のあった南米諸国との関係の継続を願い、国際協調主義をその主題に持つ戯曲『ベルラックのアポロン』を、ブラジルの舞台装置家によるフランスと世界諸国の文化性を混淆した独自の舞台演出によってリオデジャネイロで初演させたことを示した。つまり本論においては、当時の演劇人達がただ世界に普遍的に通用する劇作法、戯曲を生み出そうとしただけでなく、演出・上演のあり方も最初から世界の観客に通用する形に変えようとしていたことを明らかにすることができたのである。また論文「言葉、プロパガンダ、映画:ジャン・ジロドゥの言語観とその映画作品の関係」では、ジロドゥが19世紀フランス小説の古典であるバルザック作『ランジェ公爵夫人』を映画シナリオに翻案する中で、原作が持っている伝統的な言語観、文学観への疑いを浮き彫りにし、そして登場人物の奥深い感情、欲望を言葉を超えた視覚的、聴覚的表現で表していたことを示した。つまり本論では、当時の演劇界、映画界、文学界に置いて翻訳や翻案といった手法が、異文化・異国語の作品を紹介するだけでなく、自国の演劇史や文学史を相対化し、翻って言語や文化を超えた普遍的表現の探求を行う試金石であったことを証明することができた。当初は戯曲、テクストレベルで演劇の国際化・普遍化というテーマを考察するつもりだったが、それを舞台演出、視覚的・聴覚的表現というレベルで追究しえたことは大きな収穫だったと言えるだろう。ゆえに研究は大きく前進したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度である2024年度は、20世紀前半のフランス演劇における外国の演出法、演技法の受容、およびそれが当時のフランスの舞台表現法に与えた変化を研究する。この時期フランスでは、ロシア、ドイツ、イギリスなどで生まれた新たな演出論や演技論、また同時に日本の歌舞伎や中国の京劇など未知の東洋の演劇が紹介された。それらは単にフランスの演出家や俳優の表現の幅を広げるだけでなく、伝統的なフランスの演出術、演技法に大きな改革をもたらした。この行程について、当時の演出家や俳優の論述や演出・上演のアーカイブをもとに明らかにする。 まず、夏季休暇にフランスのパリ・ソルボンヌヌーヴェル大学のガストン・バティ演劇図書館で資料調査を行う。バティは20世紀初頭のフランス演劇界で活躍した演出家だが、同時に欧米各国の演出論、演技論の研究・紹介や、東洋、中東を含む世界演劇の包括的な研究を行った。本図書館にはバティが残した外国演劇研究の膨大な資料が保管されており、それらを検証することで当時のフランスの外国演劇受容の全体像を把握することができる。バティが出版した世界演劇史の著書から彼が収集した各地域の人形劇台本、またアメリカ、ドイツといった外国戯曲の演出・上演資料を調査し、20世紀初頭フランスにおける世界演劇、国際演劇、普遍的演劇の概念の誕生過程を明らかにしたいと思う。研究成果は、9月末に早稲田大学で開催されるブリュッセル自由大学との演劇についての国際共同研究集会で発表し、その内容をフランス語論文として国際研究論集に掲載する予定である。同時に、その若き日から積極的に海外巡業を行い、フランスの演技術の国際化、普遍化を進めた俳優で演出家ジャン=ルイ・バローの研究も行いたい。彼自身の回想録、および仏国立図書館舞台芸術部門に保存されている演出・演技ノートを調査し、その普遍的演技法の概念と実際を整理する。
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