研究課題/領域番号 |
22KJ2827
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補助金の研究課題番号 |
22J00122 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分38050:食品科学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
横山 壱成 日本大学, 生物資源科学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | メイラード反応 / 香気成分 / 保健的機能性 / 嗅覚生理応答 / 老化 / 線虫 / C. elegans |
研究開始時の研究の概要 |
香りの吸入は、脳機能や神経活動に影響することで生体の変化を誘導する。メイラード反応は食品の加熱調理・加工時に容易に起こる化学反応であり、好ましい香りや色調の変化を介して嗜好性向上に大きく貢献する。とくにメイラード反応で生成する香りは、中枢系や自律神経系へと作用し、食欲の促進や生体の鎮静化に働くことが明らかにされている。 本研究ではこのメイラード反応生成香気に着目し、寿命をはじめとした老化指標や脳機能への影響を解明することを目的とする。また、多くの香気成分の中でも主要な香気成分の検索および同定にも挑む。本研究において、線虫やマウスといった嗅覚応答がみられるモデルを利用し、多面的なアプローチを行う。
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研究実績の概要 |
本年度は、モデル動物である線虫C. elegansにおけるメイラード反応生成香気の曝露による抗老化作用の分子メカニズムの解明について検討した。 昨年度の成果より、メイラード反応生成香気の曝露により野生型線虫の寿命が延長されることを見出した。これには加齢に伴うストレスへの抵抗性が関わっていると考え、ストレスへの抵抗性について測定を行った。線虫へのメイラード反応生成香気の嗅覚刺激は、対照群と比較してストレス(酸化あるいは熱)に対する生存率を上昇させた。線虫において、ストレス抵抗性に影響するものとして、インスリン/IGF-1やAMPKのような各種シグナル伝達経路への影響が挙げられた。そこで、メイラード反応生成香気に曝露した線虫を回収し、RNA抽出および逆転写反応を経て作成されたcDNAを用いて定量PCRの解析に供した。その結果、熱ショック転写因子であるHsf-1およびその標的遺伝子であるHsp-12.6, Hsp-70のmRNA発現の上昇が認められた。さらに、抗酸化酵素であるカタラーゼ(Ctl-1, 3)の発現も上昇していた。すなわち、これら遺伝子発現の上昇が線虫のストレス耐性の向上に貢献し、結果的に抗老化作用を示すことが推察された。 次に、HSF-1を欠損した突然変異体(sy441)を用いて、嗅覚刺激に伴う寿命を測定したところ、寿命の延長は見られなかった。また、上記の遺伝子発現の変化も消失することが判明した。つまり、メイラード反応生成香気による抗老化作用には、Hsf-1を介した熱ショック反応に関連する遺伝子が関与することが示された。一方で興味深いことに、揮発性成分に対する応答が消失する突然変異体odr-3 (n2150)における定量PCR解析では、Hsf-1, Hsp-12.6, Hsp-70の発現上昇は認められなかったものの、Ctl-1,3は依然として高値を示した。このことより、カタラーゼに関する遺伝子発現上昇には嗅覚系とは独立したメカニズムが関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はメイラード反応で生成する香り刺激が、どのようなメカニズムを介して線虫C. elegansにおける抗老化作用を示すかについて取り組んだ。本研究成果より、線虫の熱ショック転写因子HSF-1を介した生体ストレス耐性の向上を引き起こし、平均寿命や健康寿命の延伸に繋がったことが予想された。また、遺伝子突然変異体を用いた実験において、この反応がメイラード反応生成香気の刺激に伴って起こることが示唆された。 この経路はマウスやヒトなどの哺乳類においても保存されている。興味深いことに、マウスでは、HSF-1と嗅神経の維持といった関連性が報告されているため、線虫とマウスでの類似性の一端を示すこととなった。今後、嗅覚刺激と熱ショック因子との関係性に注目しながら、マウスなどの哺乳類モデルでの実験系に昇華させていきたいと考えている。 なお、線虫モデルで得られた一連の成果については、日本農芸化学会2024年度大会におけるシンポジウムでの講演に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
線虫モデルで得られた成果を基にマウスなどでの検討を進めていく。その際は、メイラード反応生成香気に対するマウスの嗜好を明らかにした上で、中~長期の香気曝露を実施したい。そして、さまざまな角度から香気刺激による生体への影響を解明していく予定である。 今後、哺乳類でも健康寿命の延伸といった生体に対する好ましい影響を解明することができれば、日常的に吸入するメイラード反応の香りの重要性についてアピールすることができるのではないかと期待している。
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