研究課題/領域番号 |
22KJ2901
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補助金の研究課題番号 |
22J00010 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分43050:ゲノム生物学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川崎 純菜 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 転移因子 / 機能ゲノミクス / ゲノム進化 / RNA二次構造 / 軍拡競争 |
研究開始時の研究の概要 |
転移因子(TE)は自身のコピーを異なるゲノム位置に挿入する能力を持つDNA配列であり、ヒトゲノムの40%以上を占める。長年、TEは生物ゲノムを損傷・侵略する「ゲノム寄生体」であるとされてきた。一方で、TEに由来する機能配列が遺伝子の発現量や局在を変化させ、新たな生理機能の獲得をもたらした例が報告されている。しかし、TEにおける機能配列がどのように出現し、ヒトゲノム進化に寄与してきたのかは未解明のままとなっている。本研究では、TEが「ゲノム寄生体」として複製するプロセスに着目し、TEの進化過程で出現・変化してきた機能配列を探索することで、TEの挿入によって獲得されたヒト遺伝子機能の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
転移因子(TE)は自身のコピーを異なるゲノム位置に挿入する能力を持つDNA配列であり、ヒトゲノムの40%以上を占める。長年、TEは生物ゲノムを損傷・侵略する「ゲノム寄生体」と考えられてきた。一方で、TEの挿入によって遺伝子の発現量や局在が変化し、新たな生理機能の獲得につながった例が報告され、TEが「新たなゲノム進化リソース」となりうることが示されている。 本研究ではRNAを鋳型として複製するTEである、SINEとLINEの軍拡競争に着目して研究を進める。SINEは単独では複製できず、LINEの複製酵素に依存して増殖する。つまり、SINEはLINEの複製機構をハイジャックするために配列を進化させてきたのに対して、LINEはSINEから逃れるために配列を変化させてきたと考えられる。興味深いことに、このようなLINEとSINEの軍拡競争にはRNA二次構造が関与する可能性が示されている。したがって申請者は「TE間の軍拡競争がRNA二次構造の多様化をもたらし、ひいては新たなゲノム機能獲得の原動力になった」という仮説を立てた。この仮説が実証されれば「ゲノム寄生体間の相互作用に着目した機能ゲノミクス解析」という新たなアプローチが確立され、ゲノム生物学、進化生物学に比類ないインパクトを与えると期待する。 本年度は、SINE・LINE間で共進化しているRNA二次構造を同定するために、(1)共進化関係にあるLINE・SINEのペアリング、(2)SINE・LINE間で保存されているRNA二次構造の探索を試みた。(1)では、SINE・LINEの挿入年代および系統関係に基づき、共進化関係を推定した。(2)ではin silico解析によりRNA二次構造を予測し、SINE・LINE間での構造類似性を比較することで、有意に保存されているRNA二次構造の同定を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、SINE・LINE間で共進化しているRNA二次構造を同定するため、(1)共進化関係にあるLINE・SINEのペアリング、(2)SINE・LINE間で保存されているRNA二次構造の探索を試みた。(1)では、挿入年代および系統関係に基づき、共進化関係にあるSINE・LINEのペアを推定した。(2)ではin silico解析によりRNA二次構造を予測し、SINEとLINEの間での構造類似性を比較することで、有意に保存されているRNA二次構造を探索した。しかし本解析により、高度に保存されたRNA二次構造は同定されなかった。この原因には、解析に使用した配列データ品質の低さが挙げられる。そこで計画を修正し、ハイスループットに構造情報を取得可能なSHAPE-seqデータを解析し、RNA二次構造の特定に取り組んだ。以上より申請内容については計画の修正に伴う遅れが生じている。 並行して、以前の研究(Kawasaki et al., mBio, 2021)に関連する新たな課題にも着手している。ウイルスメタゲノム解析とは、サンプル中に存在する遺伝子配列を次世代シークエンサーにより網羅的に決定し、ウイルス配列を探索する手法である。この解析法により、新種のウイルスが次々と同定されている一方で、各ウイルスの感染性や病原性といった性質は未解明のままとなっている。従来、こうした性質はウイルス感染実験により検証されてきたが、実験検証には多大な労力と時間を要するという課題がある。申請者はこうした喫緊の課題を解決すべく、ウイルス配列情報のみから感染性を予測する機械学習モデルを開発し、ヒト感染リスクの高いウイルスから優先的に実験検証を行う体制を構築しようと考えた。申請者が構築したモデルは既存手法よりも高い性能でヒト感染性ウイルスを予測できており、期待以上の成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、SINE・LINE間で共進化しているRNA二次構造を同定するため、(1)共進化関係にあるLINE・SINEのペアリング、(2)SINE・LINE間で類似しているRNA二次構造の探索に取り組んだ。しかし(2)において、SINE・LINEの配列データクオリティの問題により、in silico解析ではこれらTE間で保存されているRNA二次構造を特定することが難しいという課題に直面した。そのため計画を修正し、ハイスループットに構造情報を取得可能なSHAPE-seqデータを解析し、SINE・LINEにおけるRNA二次構造の特定に取り組んでいる。修正後の計画ではゲノムワイドな構造情報マッピングにより、各SINE・LINE遺伝子座におけるRNA二次構造を決定し、共進化関係にある構造を探索する。さらに、SINE・LINEにおいて共進化してきたと考えられるRNA二次構造が、これらTEの複製プロセスに与える影響をウェット実験により検証する。具体的には、野生型SINEおよびRNA二次構造を破壊したSINE変異体の挿入活性を、LINEを発現させた培養細胞において測定・比較する。野生型SINEと比較して、変異体の挿入活性が有意に減弱した場合、該当のRNA二次構造はSINEがLINEの複製機構をハイジャックする上で重要な機能を担っていると考えられる。 また並行して取り組んでいた「ウイルス感染性予測モデルの構築」という研究課題に関しては、既存手法よりも高い性能でヒトへの感染性を予測できているため、本成果に関して次年度中の論文投稿を目指す。
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