研究課題
特別研究員奨励費
慢性的な痛みが全身に生じる線維筋痛症による甚大な経済損失は世界的社会問題である.身体運動は線維筋痛症の症状改善に効果的であるため,その実施が推奨されている.運動時の過剰な血圧上昇(昇圧応答)は運動の安全性を損ねてしまうにもかかわらず,線維筋痛症が運動時の昇圧応答に及ぼす影響は明らかではない.本研究では線維筋痛症のモデル動物を用いて,線維筋痛症における運動時の過剰昇圧応答のリスクを世界で初めて明らかにし,加えて,線維筋痛症における過剰昇圧応答の機序も解明する.これにより,線維筋痛症に対する運動処方の実施の安全性の担保に貢献する.
本年度は,線維筋痛症モデル動物における運動時の神経性循環調節機構である筋機械受容器反射の亢進機序の解明を目的とした.無麻酔除脳動物を用いたin vivoの系の実験を実施した結果,線維筋痛症モデル動物では,筋pHが低下していることが明らかとなった.さらに,線維筋痛症様症状により,下腿三頭筋の受動的ストレッチに対する血圧・交感神経活動応答が亢進するが,プロトンポンプである液胞型ATP分解酵素の阻害薬を下肢に投与することにより,その亢進が抑制されることが明らかとなった.また,分子生物学的手法を用いて,線維筋痛症モデル動物の筋機械受容器反射の求心路を担う脊髄後根神経節(DRG)において,酸感受性を有するイオンチャネルであるtransient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)と,酸感受性イオンチャネル3(acid sensing ion channel 3, ASIC3)の発現を検討した.その結果,線維筋痛症モデル動物は対照動物を比して,DRGにおけるASIC3の発現が増加していることが明らかとなった.現在までのところTRPV1の発現については,有意な増加は観察できてない.そのため,TRPV1のリン酸化に着目して分子生物学的評価を継続している.以上の本年度の成果とこれまでの研究成果により,線維筋痛症モデル動物における筋機械受容器反射の亢進は,液胞型ATP分解酵素を介した骨格筋の酸性化により惹起され,少なくともASIC3が関与していることが示唆された.
すべて 2023 2022 2021
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 5件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件)
Scientific Reports
巻: 13 号: 1 ページ: 13585-13585
10.1038/s41598-023-39633-1
Autonomic Neuroscience
巻: 250 ページ: 103128-103128
10.1016/j.autneu.2023.103128
The Journal of Physiology
巻: 601 号: 8 ページ: 1407-1424
10.1113/jp284026
巻: 12 号: 1 ページ: 18160-18160
10.1038/s41598-022-22852-3
体育学研究
巻: 67 ページ: 761-773
巻: 600 号: 3 ページ: 531-545
10.1113/jp282740
アプライドスポーツサイエンス
巻: 1 ページ: 23-31
Physiological Reports
巻: 9 号: 22
10.14814/phy2.15125