研究課題
特別研究員奨励費
本研究は,妊娠期~産後1年の母親の身体感覚と,乳児期の母子間アタッチメントの関連を,実験的手法により検討する。ヒトのアタッチメントは,ペア間で個人差がみられ,その多様性は子どもの社会情動発達予後に大きな影響を与える。哺乳類の親子間アタッチメントは,身体接触を介した双方向の生理的調整の蓄積として形成されると考えられている。このような背景から,親子の身体的関係性から,ヒト母子間の関係性を再考する。妊娠期~産後にかけて,母親が子どもの存在を,自己と身体を共有しながら成長してきた存在から,自己身体と分離した存在として認識するに至るまでの過程が,アタッチメントにどのように影響を与えるのかを検討する。
本研究課題は,妊産婦の身体感覚や身体認識と,母子間アタッチメントとの関連を実証的に検討する。3年間の研究期間内に,妊娠期~産後12ヶ月までの母親と乳児,妊娠・出産経験のない女性を対象として三つの研究を実施する。研究1では,妊娠期の女性の身体感覚と,胎児に対するアタッチメント感情との関連について質問紙調査によって検討する(横断研究)。研究2では,母親の身体感覚が,妊娠期から産後にかけて母親の身体的・生理的変化によってどのように変遷するのかを実験的に検討する(縦断研究)。研究3では,妊娠期~産後の母親の身体感覚の変遷が,産後1年間の母子間アタッチメントとどのように関連するのかを検討する(縦断研究)。2022年度は,新型コロナウィルス感染症(covid-19)に対する対策を講じながら,研究2および研究3の実施を進めた。研究2の実証実験では,一人の対象者に対し,次の三つの身体感覚に関する課題を実施し,身体感覚を包括的に評価した。心拍カウント課題では,内受容感覚(i.e., 心臓,胃腸など身体内部システムに対する感受性)の正確性を測定した。ラバーハンド錯覚課題では,身体所有感(i.e., 腕や足などの身体部位が自分のものであるという感覚)の移ろいやすさを測定した。そして,身体周辺空間課題では,身体を取り囲む空間のうち,自分の手が届くと認識される空間の範囲を測定した。研究3では,質問紙調査によって,妊産婦の子どもに対するアタッチメントの強さ,メンタルヘルスや身体的愁訴の有無を包括的に評価した。2022年度は,主に妊産婦を対象に上記の実験・調査を実施し,データ解析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
2022年度は,新型コロナウィルス感染症(covid-19)に対する対策を講じながら,研究2および研究3の実施を進めることができた。但し,妊産婦はcovid-19感染時の重症化リスクの高さから,対象者のリクルートが難航した。調査に参加いただいた方の多くは縦断調査にも協力いただいているため,引き続き,対策を施しながらデータ取得および解析を進める。
2023年度も引き続き実証実験を継続すると共に,妊婦に対しては妊娠期から産後にかけての女性の身体感覚の長期的な変化について追跡調査を行う予定である。また,得られたデータの解析を進め,学会・論文発表を行う。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
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