研究課題/領域番号 |
22KJ3059
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補助金の研究課題番号 |
21J00031 (2021-2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2021-2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
鈴木 寛大 甲南大学, 自然科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 超新星残骸 / 粒子加速 / 宇宙線 / 宇宙X線観測 / 装置開発 |
研究開始時の研究の概要 |
高エネルギー粒子線:銀河宇宙線の加速源として有力なのは超新星残骸の衝撃波である。私は粒子たちがどれほどのエネルギーまで加速され、どのように銀河系へ拡散し宇宙線となるのか、という問題の解明を目指している。GeV帯域とTeV帯域のガンマ線観測を行い、多数の超新星残骸での粒子の拡散スピードや最高加速エネルギーなどを測定する。同時に、X線・電波・可視光などを使った狭い空間領域の深い観測により、宇宙線加速と拡散の素過程の理解に切り込む。次期X線衛星XRISMの運用開始後には、衝撃波直下の熱エネルギー量を直接測定することで、超新星残骸が宇宙空間に供給する宇宙線エネルギー量の絶対値を初測定する。
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研究実績の概要 |
本年度は日本で開発中のX線天文衛星XRISMの打ち上げまで約1年となり、衛星総合試験が開始された。私は観測装置の1つであるCCDカメラのチームに参加している。試験では観測装置の様々なモードの動作確認、性能確認、パラメータ調整などを行なった。私はチームメンバーとして衛星試験や打ち上げ後の軌道上運用のための運用手順書を作成・検証・管理してきた。昨年度末に自身が所属する甲南大学にて立ち上げたコマンド試験環境(テストベンチ)を用いて、作成した手順書の検証を行い、JAXA筑波宇宙センターと種子島宇宙センターで行われる実機試験を最大限にスムーズにした。特に、実機で起きうる問題点を洗い出し、対策を施すことができた。地上試験や軌道上運用の準備状況については、国内外の研究会で私がCCDチームの代表として講演をした。 科学成果の面では、超新星残骸の衝撃波面での宇宙線加速メカニズムの素過程を調査するため、衝撃波周辺の環境の情報と宇宙線加速の状況、さらに衝撃波速度が全て観測できる稀な天体であるRCW86南西領域に着目し、前年度に引き続き調査を続けた。検討の結果、従来の想定と異なり、衝撃波速度よりも周辺物質の密度が宇宙線加速の効率を決定づけていることが明らかになった。この結果は査読論文として公開した。また、国内外の研究会で講演を行なった。本年度は新たに同じ天体の中でも宇宙線加速の様相が異なる領域に対して同様な調査を進め、環境依存性の定量理解を深めることで素過程の理解に迫っている。また、分子雲との衝突箇所をそうでない箇所と綺麗に区別でき、衝突箇所で硬X線超過が見られる超新星残骸N63Aについて、NASAの硬X線観測衛星NuSTARによる観測提案が採択され、手に入ったデータの解析を進めている。宇宙線加速の物理が周辺物質の性質にどう左右されるかをもとに、素過程の理解をより進めることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
XRISM衛星開発の面と科学成果の面の双方で概ね順調に研究が進行したと言える。本年度は、昨年度から加入しているXRISM衛星のX線CCDチームでの貢献に割くエフォートを高め、衛星試験の試験手順書作成・管理、試験の現地参加、取得したデータの解析を行なった。チーム内での貢献により、国内外の研究会にてCCDチーム代表としての講演を何度か任されている。XRISM衛星とは別に、より将来のX線観測を見据えたCMOSセンサ開発の実験環境を立ち上げ、基礎データの取得をし、データ解析の環境をひと通り作り上げることもできた。 超新星残骸の宇宙線加速研究の面では、最近の研究を査読論文として公開し、前後の研究成果を含めて国内外の研究会で報告をすることができた。また、研究対象を広げ、超新星残骸と同時に生まれると思われている中性子星の多様性や、近年新たに見つかっている白色矮星連星の素性を調べる研究も大いに進めることができた。 今年度は海外出張が可能になったため、世界の研究者と交流ができるようになった点も大きい。実際に、アメリカやオランダ、ドイツの研究者たちと議論を深めたり、新たな研究の種を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、XRISM衛星の打ち上げを控えているため、打ち上げ前の各種試験や打ち上げ後の初期運用の準備を行う。具体的には、種子島の打ち上げ場での試験の手順書作成、試験参加と監督、軌道上で使用する運用手順書の仕上げを行う必要がある。また、打ち上げ後の衛星運用・装置の校正のための人員配置をチーム内で固める。打ち上げ後のスムーズな観測データ解析と成果公開の準備、すなわち量子力学の背景物理の習熟、精密X線データ解析の習熟も進めておく。打ち上げ後には、超新星残骸SN1006, Tycho, Cygnus loopなどの解析をリードする予定である。より将来のX線観測を見据えた実験、シミュレーション、データ解析手法の検討も行う。CMOSセンサの評価実験や、衛星に搭載した場合のシミュレーション、実験データを用いたX線信号判別アルゴリズムの最適化の研究を行う予定である。 並行して、現在手に入る超新星残骸などのデータの解析と成果報告も進める。特に今年度NuSTAR衛星を使って観測することができたN63Aや昨年度調査したRCW86の別の領域の粒子加速環境の研究状況をまとめ、査読論文化する。また、研究の幅を広げるべく今年度に本格的に開始した中性子星の多様性の謎や白色矮星連星の素性の研究を進めつつ、宇宙線加速研究に関してもX線のみでなく電波やガンマ線帯域のデータを使いこなして最高加速エネルギーや加速プロセスの物理的理解を深めていく。
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