研究課題
特別研究員奨励費
細胞老化は、生体内で働く重要ながん抑制機構である一方で、体内の老化細胞が炎症性蛋白質を分泌するSASPをおこすことで、様々な加齢性疾患を引き起こす副作用があることも知られている。申請者らは、近年がんとの関わりが注目されているDNA/RNAハイブリッドがSASP誘導に関わるという新知見を見出しているが、その詳細な分子機構や生体での機能については未解明である。そこで本研究では、DNA/RNAハイブリッドとSASPによるがん促進機構を明らかにし、がんの新規予防法や治療法の開発へとつながる知見を得ることを目指す。
昨年度までに我々は、①RNaseH2Aの発現制御はE2Fファミリーによって担われていること、②RNaseH2Aの過剰発現は老化細胞におけるSASPを抑制できること、③正常細胞におけるRNaseH2Aのノックダウンは細胞老化様の表現型を導くこと、④大腸がん細胞でRNaseH2Aをノックダウンすることで炎症性サイトカインの発現上昇や浸潤能の増強を誘導できることを明らかにしてきた。がん細胞におけるRNaseH2Aの役割を更に明らかにするために、大腸がんの多段階発がんモデルマウス由来のオルガノイドを用いて検証を行った。すると、悪性度が高くなるような変異が多く入ったオルガノイドほど、RNaseH2Aの発現が低下し、SASP様の遺伝子発現を示すことが分かった。更にTCGAデータベースを用いた解析から、ヒトの大腸がん、子宮頸がん、卵巣がんにおいては、RNaseH2Aの発現量が低いことと予後不良が相関することがわかった。これらのことから、がんにおいてRNaseH2Aの発現が低下することが、がんの悪性化をもたらす可能性が示唆された。RNaseH2A発現低下が生体内の老化細胞で実際に起こっているのかを調べるために、マウスの組織を用いた実験を行った。マウスの肝臓や膵臓において、細胞老化マーカーの一つであるp21の陽性細胞では陰性細胞と比較してRNaseH2Aの発現が低いことがわかり、生体内の老化細胞でもRNaseH2Aの発現が低下することが明らかになった。更に、早老症の一種であるWerner syndromeの患者由来線維芽細胞を用いた実験では、健常者由来の対照細胞に比べて早期にRNaseH2Aの発現が低下していることや、SASP様の遺伝子発現が亢進している事を見出した。これらの結果から、RNaseH2Aの発現低下は早老症患者の病態に相関することが示唆された。
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Commun Biol
巻: 5 号: 1 ページ: 1420-1420
10.1038/s42003-022-04369-7