研究課題/領域番号 |
22KJ3143
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補助金の研究課題番号 |
22J00805 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分56060:眼科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小川 護 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | メタボローム / 脂質代謝 / 創傷治癒 / マイクロバイオーム / ホメオスタシス / 角膜上皮幹細胞 / 上皮再生 / リピドミクス / 12/15-LOX / マイボーム腺 / 結膜上皮細胞 / 菌依存的な脂質代謝変化 / コレステロール硫酸 / 硫酸基転移酵素SULT / 脂質メタボローム解析 / in vitroスクラッチアッセイ |
研究開始時の研究の概要 |
眼球最表面に存在する角膜上皮細胞は、常に外部ストレスに暴露され創傷を感知し治癒を誘導し、恒常性を維持している。しかし、その詳しい分子メカニズムまだ明らかになっていない。脂質は全身において組織恒常性に深く関わっており、眼における寄与も報告されている 。また、全身におけるマイクロバイオームとホストの関わりが近年数多くの研究で明らかになっている。そこで眼球における菌と脂質代謝の関わりを解明すべく、1)脂質代謝を制御する菌の同定、2)菌によって産生される脂質代謝物の中で創傷治癒に効果がある新規化 合物の同定、3)菌がもたらす眼表面における脂質代謝への制御機構の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
1年目の研究において、抗生剤全身投与マウスで眼表面角膜創傷治癒が遅延することを見出していたが、抗生剤カクテルを飲水だけでなく点眼投与し角膜創傷モデルを施行すると、全身投与マウス同様に創傷治癒が遅延した。つまり、眼表面のマイクロバイオームが角膜創傷治癒に関わることが示唆された。その程度は抗生剤全身投与マウスに比してもさらに遅延を認めた。 無菌マウスや抗生剤投与マウスの眼球において増加が認められたコレステロール硫酸に着目し、涙腺やマイボーム腺などオキュラーサーフェスと呼ばれる眼表面の付属器でも脂質メタボローム解析を行った。眼球と同様に涙腺やマイボーム腺においても抗生剤全身投与マウスにおいて、コレステロール硫酸の増加を認めた。逆に、血漿や肝臓においてはコレステロール硫酸の増加は菌欠失マウスにおいて認められなかったため菌依存的な変化は眼球特異的であることが予想される。さらに、MALDIイメージング質量分析装置を用いて眼球および付属器の測定条件を最適化し、切片を作成し解析することでオキュラーサーフェスにコレステロール硫酸が局在することを発見した。これらの結果よりコレステロール硫酸は内因性に存在していることがわかった。 続いて、コレステロール硫酸を点眼薬として1日3回野生型マウスに直接投与すると、濃度依存的に角膜創傷治癒の遅延を認めた。さらに、HBSS・コレステロール・コレステロール硫酸を点眼投与し比較すると、コレステロールに比して、コレステロール硫酸が創傷治癒遅延を示した。そのコレステロール硫酸は硫酸基転移酵素Sulfotransferase (SULT) 2B1によってコレステロールから産生されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗生剤点眼投与の実験結果より、腸内細菌だけでなく眼表面のマイクロバイオームが角膜創傷治癒に寄与することが考えられた。このことから、皮膚や肺の組織同様に組織特異的な常在菌が眼球恒常性を制御していることが考えられる。眼球におけるマイクロバイオームは数が少なく、その機能はほとんど未知であるため創傷治癒制御機構の新たな発見が期待される。 マイクロバイオームを欠失させたマウスの眼球においてコレステロール硫酸の増加を見出したが、その増加は涙腺やマイボーム腺などオキュラーサーフェスと呼ばれる眼表面の付属器でも同様であること、さらにその菌依存的な変化は眼組織特異的であることを発見した。従来、四重極飛行時間型質量分析装置でコレステロール硫酸は検出していたが、三連四重極型質量分析装置で定量を行うことにも成功し、眼球におけるコレステロール硫酸の産生を確認した。また、MALDIイメージング質量分析装置を用いて眼球および付属器の測定条件を最適化し解析することでオキュラーサーフェスにコレステロール硫酸が局在することを発見した。さらに、そのコレステロール硫酸の点眼投与は角膜上皮創傷治癒遅延を示すことも発見した。これらの結果より眼球常在菌-脂質代謝を介した眼表面における恒常性維持機構の解明が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
1)眼表面恒常性維持に関わる菌の同定:抗生剤投与有無(点眼・飲水)のマウス糞便および眼球(特に眼表面の角膜・結膜)を採取し、菌の定量を行う。腸管組織に比べて眼表面のマイクロバイオームは数が少ないため回収量を増やす。さらに、菌叢16S-rRNA シークエンスを野生型および遺伝子欠損マウスで行い、菌叢をさらに明らかにしていく。既に眼球において存在が報告されているコリネバクテリムなども含め、菌ライブラリーを用いることで基質となる脂肪酸やコレステロール、またはヒト培養角膜上皮細胞との共培養を行い活性評価を行う。 2)菌依存的に変化する脂質代謝物の同定と創傷治癒効果への検証: コレステロール硫酸の点眼投与が、濃度依存的に角膜創傷治癒の遅延を認めることを確認した。さらにHBSS・コレステロール・コレステロール硫酸を点眼投与し比較すると、コレステロール硫酸が最も創傷治癒遅延を示したが、他にもステロイド骨格を有する化合物を網羅的に投与することでコレステロール硫酸の特異性を検証する。 3)菌依存的な眼表面における脂質代謝制御機構の解明 コレステロール硫酸は硫酸基転移酵素Sulfotransferase (SULT) 2B1によってコレステロールから産生されることを確認したが、現在、SULT2B1の眼表面における菌依存的な機能解析を行うため、SULT2B1ノックアウトマウスを導入中である。このマウスを用いて抗生剤投与や角膜創傷治癒の実験を行う。 また、in vitroにおいてヒト角膜輪部上皮幹細胞 (HCLE)を導入し創傷治癒モデルスクラッチアッセイを確立したが、全自動生細胞解析装置を用いより安定的にハイスループットに実験できるアッセイを導入している。今後はこれを用いて候補の脂質化合物や菌の抽出物の網羅的な投与実験および評価を行う。
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