研究課題
特別研究員奨励費
腎臓はネフロンを介して尿産生を担う一方、間質から分泌されるホルモンを介して血圧調整・造血促進を行う内分泌器官である。慢性腎臓病(CKD)の一次原因は多岐にわたるが、その 増悪機序は共通して腎臓間質細胞の形質転換による線維化である。腎間質細胞の喪失は腎内分泌能の低下・毛細血管の退縮を介して2次的な腎障害を引き起こし、腎不全の悪化を加速させる。本研究では腎臓と精巣の発生学的起源および構造の同一性に着目し、精巣・腎臓間での間質細胞交換移植により腎内分泌機能の温存、もしくはレスキューを図る。これにより、精巣をツールとした CKD への新たな治療戦略・可能性を拓く。
本研究課題では精巣・腎臓間での間質細胞交換を通して腎機能のレスキューを狙うとともに、これらの臓器におけるホメオスタシス制御機構、および細胞運命決定機構の解明に取り組むものである。本年度は当初の予定どおり(1) 精巣・腎臓間での間質細胞交換移植実験系の立ち上げに取り組む傍ら、(2)「液体の流れ」を介した精巣内ホメオスタシス制御機構の解明に迫った。(1)精巣・腎臓間での間質細胞交換移植:腎臓と精巣は共に中間中胚葉から発生し、共通して管構造と間質からなる組織学的特徴を持つことに加え、両者のシグナル因子を介した器官発生および細胞制御機構には共通項が多い。本研究では精巣・腎臓間の共通性に着目し、これら臓器間の間質細胞の互換性・過疎性を解析すべく、両臓器間での間質細胞移植を試みた。本年度は間質細胞の移植実験系の確立に取り組む一方で、シングルセル RNAシーケンス(scRNAseq)解析により一細胞レベルでの精巣間質細胞の性状解析を行い、ユニークな性質を持つ少数の新規間質細胞集団の同定へと至った。(2)液体の流れを介した精巣内ホメオスタシス制御機構:ほ乳類の精巣で作られた精子は精細管内の管腔液の流れに乗って精巣の外へと運ばれるが、精巣出口部分には精巣網という網目状の構造があり、これに隣接してセルトリバルブと呼ばれる弁構造が存在する。しかしながら、セルトリバルブの機能的役割は分かっていなかった。申請者は精巣網特異的な転写因子Sox17の欠損がこのセルトリバルブ弁の形成不全を引き起こし、これによる管腔液の逆流が精子発生不全による男性不妊に繋がることを明らかにした。これにより、セルトリバルブの逆流防止弁としての機能を世界に先駆けて明らかにした。以上の成果は今年度米国科学誌Nature Communicationsに報告している。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Nature communications
巻: 13 (1) 号: 1 ページ: 7860-7860
10.1038/s41467-022-35465-1
International Journal of Molecular Sciences
巻: 23 号: 21 ページ: 13373-13373
10.3390/ijms232113373