研究課題/領域番号 |
22KJ3188
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補助金の研究課題番号 |
22J01141 (2022)
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 基金 (2023) 補助金 (2022) |
応募区分 | 国内 |
審査区分 |
小区分43040:生物物理学関連
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
小林 稜平 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 計算科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | FoF1 ATP合成酵素 / F1-ATPase / IF1 / Inhibitory factor 1 / 回転分子モーター / 分子動力学シミュレーション / タンパク質デザイン / FoF1-ATP合成酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
ATP合成酵素(FoF1)は、双方向に回転して可逆的にATP合成/分解反応を触媒する回転分子モーターである。ミトコンドリア型FoF1の制御因子IF1は、ATP分解のみを阻害し、FoF1の機能調節に寄与している。IF1が分解反応を阻害する過程については研究が進んでいるが、IF1が合成反応を阻害しない、IF1がバクテリア型FoF1には作用しないという2つの特徴について明確な説明は未だ与えられていない。 本研究では分子動力学法を用いてこれらの問いに答え、IF1による反応制御機構を原子レベルで理解することを目的とする。さらに、計算結果をもとに変異体IF1を作製して、新規阻害因子の設計・機能解析を目指す。
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研究実績の概要 |
今年度は、IF1による「一方向反応制御」と「種特異的制御」の2点について研究を進めた。 前者に関して、F1-IF1複合体に対してγを120°強制回転させたシミュレーションを実行した。その結果、時計回り方向に回転させるとαβの構造変化が観察されたが、反時計回りの場合は構造変化は観察されなかった。時計回り方向回転の結果に対してさらに解析を進めると、回転によってγとIF1の相互作用が減少して、IF1のヘリックスの一部が壊れることが明らかになった。次にγを240°まで回転させた後にtargeted MDを行うことでαβの構造変化を誘起して、IF1にどのような変化が生じるかを観察した。その結果、βがClosed状態からOpen状態へと構造変化するのに伴い、IF1のヘリックスの大部分が崩壊する様子が観察された。つまりγの回転やαβの構造変化によって、IF1は十分に安定な阻害構造からヘリックスが崩壊した不安定な構造へ遷移し、解離に近づいたことを示唆している。これらの結果は、過去の1分子操作実験の結果と一致する。一方で、γを反時計回り方向に回転させた場合についても詳細な解析を行なうと、γの回転に伴いIF1のF22残基が隣接するβの残基と衝突する様子が観察された。これが反時計回り方向の回転を抑制する理由のひとつと考えられる。 後者に関して、ミトコンドリア型F1とバクテリア型F1の構造を比較したところ、ミトコンドリア型では存在するβのC末端のヘリックスがバクテリア型では存在しないことを発見した。この領域にはIF1のC末端が結合することがわかっており、F1-IF1間の相互作用の足場になり得る重要な領域である。この発見はミトコンドリア型F1とバクテリア型F1でIF1阻害の程度が異なる理由と考えられ、本研究が目指す「IF1によるバクテリア型F1の阻害」を実現する上で大きな発見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の目標として、(1) 回転方向依存的なIF1の制御機構、(2) 種特異的なIF1の阻害機構という2つの性質を解明することを掲げた。 (1)に関して、γを強制的に回転させるシミュレーションを実行することで、(a) γの時計回り回転とαβの構造変化に応じたIF1の解離機構と(b) γの反時計回り回転を抑制する機構の2点に大きな成果が得られた。これらの結果は以前の1分子操作実験による発見に対して、詳細なタンパク質相互作用による解釈を与えるものである。現在、原著論文の出版準備中である。 (2)に関して、変異体を用いた過去の生化学実験の結果に合致する解釈を与えることができた。野生型のミトコンドリア/バクテリアF1の構造を比較するだけではなく、AlphaFold2による変異体の構造の予測も行い、IF1阻害の応答性とβのC末端の一部のヘリックス形成に相関があることを見出した。この解析結果は生化学実験の結果と合わせてProtein Science誌に原著論文として出版した。 以上のように、両者の課題ともに原著論文として出版できるレベルの大きな発見があり、計画以上に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
課題1「IF1による一方向反応制御」に関して、IF1の構造変化に伴ってF1との結合エネルギーがどのように変化するかを定量化する。全体の結合エネルギーに対する残基ペアごとの寄与を算出することで、重要なアミノ酸残基の特定が可能となる。それらの知見を生かして変異体を用いた生化学実験を行い、機能がどのように変化するかを検証する実験も考えている。 課題2「IF1による種特異的制御」に関して、今年度の発見に基づいてバクテリア型F1を阻害するIF1のデザインを試みる。配列デザインにはProteinMPNNを用いる。今年度の活動でProteinMPNNを利用した配列設計をすでに完了させており、今後は生化学実験でそれらの機能を検証する。課題1と同様に、分子動力学シミュレーションを用いた結合エネルギー算出により、設計したIF1とF1の相互作用の定量化も予定している。
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