研究実績の概要 |
本研究は、イギリスの「言語意識(language awareness)」「言語への認識(awareness of language)」を理念の軸に据えた教育運動であった「言語意識運動(Language Awareness Movement)」を対象とするものであった。また、この対象を据える目的として、母語教育と外国語教育の連携も視野に入れながら、言語横断的な言語教育のカリキュラム論や授業論の新たなあり方を模索することがあった。これまで言語意識運動の代表的論者と称され多言語を1つの教科「言語」に含めたホーキンズ(Hawkins, E.)のカリキュラム論、ホーキンズを参照しつつ英語教育(母語教育)に傾斜のかかった立場にたっていたティンケル(Tinkel, A.)のカリキュラム論、そしてこれらの立場を批判的に捉えつつ、言語意識運動の主軸となる「言語意識」の考え方を生かしながらカリキュラム論・授業論を提唱したウォレス(Wallace, C.)の論を検討してきた。 そして今年度(2023年度)は、1970年代に実施され言語意識運動の萌芽となった取り組みである、スクールズ・カウンシルの「言語学と英語教育プログラム」を対象として分析を行なった。その結果、これまで言語意識運動のルーツとしては社会言語学的知見が主に指摘されてきたが、そのルーツには教科横断的な言語教育を志向する「カリキュラムを横断する言語(Language Across the Curriculum)」からの影響や、本質主義的立場と進歩主義的立場の間をとるカリキュラム論の構築もあったことが明らかとなった。ここから、当時のイギリスにおいて言語意識運動は、カリキュラム内の連関性の強化や、子どもの有している知識を尊重しつつ子どもの学びを保障することを目指すような授業づくり・カリキュラム設計のあり方をも志向していたことが明らかとなった。
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